物価上昇に伴って見え始めた賃上げの流れを、構造的な賃金上昇につなげ、好循環を生み出していけるか試される。
政府は、岸田文雄首相が掲げる経済政策「新しい資本主義実行計画」の改定案を示した。
7日公表の経済財政運営の「骨太方針」案にも反映され、岸田首相は、骨太方針案を示した経済財政諮問会議で「新しい資本主義の実現に向けた取り組みをさらに加速させていく」と強調した。
新しい資本主義は、経済を市場の競争原理に任せすぎず、官民が連携して成長を目指すものだ。賃上げなどを通じて成長の果実を分配し、消費を活発にして次の成長につなげることが柱となる。
改定では、持続的な賃上げに向け、競争や転職を後押しする労働市場改革を進めることを鮮明にした。労働者のリスキリング(学び直し)支援や、職務給の普及に力を入れ、デジタルなど成長分野への労働移動を促進する。
先進国では、ITなど高い技能が求められる職種は賃金が高い傾向にあるが、日本ではデジタル化自体が遅れている。
学び直しをはじめとした支援を強化し、こうした分野への人材移転を進めることは現実的だ。国際的な競争力の観点からも、急いで取り組む必要があり、きめ細かな態勢を整えなければならない。
注意したいのは、労働市場改革によって不利益を被る人が生じかねないことだ。
計画は、年功序列を前提とした雇用慣行を転換するため、同じ会社に長く勤めるほど有利になる退職金の課税制度を見直すことも検討対象とした。
しかし内容によっては長期勤続の中高年の税負担が増す可能性があり、配慮が要る。
退職所得課税の控除額を左右する勤続年数は、転職するたびにリセットされ、働き方の多様化が想定されていないと指摘されている。転職を重ねても不利にならないように、制度設計を改めて考える必要もあるだろう。
労働分野については、骨太方針案の中でも強調された。
最低賃金を巡っては、現在の全国平均額の961円から引き上げ、時給千円達成を含めて議論する方針が触れられた。
公立学校の教員給与については、残業代の代わりに上乗せする「教職調整額」が実態に合わないとの批判が強く、教員の処遇を改善する方向で抜本的に見直すことも明記された。
日本は物価を反映させた実質賃金の伸びが1991年からほぼ横ばいで、1・52倍の米国などに比べて大きく後れを取っている。
成長分野に特化せず、社会に不可欠な医療や介護、地域に根差した既存産業にもしっかりと目配りし、産業全体の底上げを図ることが欠かせない。
