マイナンバーカードを巡るトラブルが止まらず、国民に不信が広がっている。政府は利用拡大へ突き進むのではなく、制度の見直しを含めて検討すべきだ。
河野太郎デジタル相は、マイナンバーと公的給付金の受取口座をひも付ける際、本人ではなく家族や同居人らの名義の口座を登録したとみられるケースが約13万件あったと発表した。
登録できるのは、本人名義の1人1口座だが、親が子どもの手続きをする際に自身の口座を登録したケースが多いとみられる。
口座を持たない子どもは多く、小さな子どもなら親が管理したいと考えるのが普通だ。給付金を一元管理したい家庭のニーズを配慮しない制度設計と言える。
新型コロナウイルス禍の給付金や児童手当のように世帯主の口座に振り込まれるケースとは異なるが、政府の周知は足りなかった。
振り込み遅れなどにつながるため、河野氏は9月末までに本人名義に変更するよう呼びかけた。
また、全くの他人の口座が誤登録された可能性が高い事案が、748件確認された。マイナポイントの申し込みに向けて市町村が開設した支援窓口で相次いだ。
個人情報が流出する重大なミスである。点検を徹底し、安全性を最優先に取り組まねばならない。
深刻なのは、家族名義の登録について、デジタル庁は2月に2件あったと把握していたが、幹部に情報が上がらなかったことだ。
情報を共有し即座に対策を取っていれば、13万件もの登録ミスは起きなかっただろう。
デジタル庁では昨年8月も、カード普及策のポイント誤付与が判明したが、幹部に知らされなかった。あまりにもお粗末だ。なぜ繰り返すのか猛省してほしい。
マイナカードを巡るトラブルは、証明書のコンビニ交付で他人の住民票などを発行したり、カード取得者向けのサイト「マイナポータル」で他人の年金情報を閲覧できたりと枚挙にいとまがない。
国民から「自分の情報がさらされるのではと心配」といった声が出るのも当然だ。
個人情報が流出する重大トラブルが起きているさなかに、国会では来年秋に健康保険証を廃止しマイナと一本化する法が成立した。
カード申請が困難な高齢者や障害者で、無保険扱いになる人が出るとの懸念が強い。
さらに政府は2024年度末までの早い時期に、カードに運転免許証の機能を持たせることや、26年中にカードの券面情報を刷新しプライバシーに配慮した内容に見直す方針も示している。
国民の不安を顧みずに、あまりにも前のめりだ。このままでは到底理解は得られない。
信頼を取り戻すには、ミスが起きない確実なシステムの構築に全力を挙げねばならない。
