「犬公方(くぼう)」として知られる、江戸幕府第5代将軍・徳川綱吉の命を奪ったのは麻疹だった。いわゆる「はしか」である。還暦を過ぎてから感染し一時は快方に向かったが、結局帰らぬ人となった
▼麻疹は一度感染して発症すると、免疫が生涯にわたって持続するとされる。将軍の子として生まれた綱吉は江戸城の奥深くで暮らし、世間とは隔離状態で育ったために免疫を得られなかったという見方がある
▼現代でも免疫がなければ大人でも重症化し命に関わることがある。免疫のない人が感染すると、ほぼ全員が発症する。感染力は極めて強く特別な治療薬はない。先進国でも千人に1人は命を落とすというから怖い伝染病だ
▼そんな疫病が流行する懸念が高まっている。新型ウイルス拡大の影響でここ数年は下火だったが、出入国制限の緩和によって海外から麻疹ウイルスが持ち込まれたらしく、各地で感染が確認されている。県内ではこのところ感染の報告はないが、油断は禁物だ
▼予防の決め手は、やはりワクチンらしい。日本ではワクチン接種が進み、子どもの頃に2回打つ定期接種となっている。世界保健機関(WHO)は2015年に「排除状態」と認定した。しかし厚生労働省などの集計によると21年度の接種率は1回目が93・5%、2回目が93・8%で、いずれも前年度より減少した
▼接種率が下がったのも、新型ウイルス流行の影響だろうか。感染禍のとんだ置き土産といえるのかもしれないが、受け取るわけにはいかない。