多様性への理解を進め、少数者の権利を守ることができる修正案なのか懸念がある。差別を助長する内容であってはならない。
自民、公明、日本維新の会、国民民主の4党は、LGBTなど性的少数者への理解増進を目的とした法案の与党修正案に合意した。衆院内閣委員会は4党などの賛成多数で可決した。
修正案は衆院本会議を経て参院に送付され、16日にも成立する公算が大きい。
法案は、与野党が議員立法として計3案を提出し、自分が認識する性を指す「性自認」の表現の扱いが論点になっていた。
与党案は心と体の性が一致しない障害名にも使われる「性同一性」を、立憲民主党などの案は「性自認」を用いた。維新と国民の案はいずれにも訳せる「ジェンダーアイデンティティ」とした。
3案を採決すれば与党案の可決は確実だった。しかし与党単独で可決すれば、伝統的家族観を重んじる保守層の批判が与党に集中し、支持を失いかねない。
そのため与党は、維新と国民の案を丸のみして修正案にまとめ、既存の3案とは別に、自公維国4党の案として共同提出した。
自民主導の印象を薄めると同時に、会期内の法成立を意識した奇策と言える。
懸念するのは、修正案に「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」と規定し、性的少数者への差別や偏見を解消できない「性的多数者側」の立場を尊重する視点が盛り込まれていることだ。
一見すると穏当な表現だが、性的多数者の権利を、人権侵害に苦しむ性的少数者から守るというのは、明らかに本末転倒で、論点がずれている。
当事者団体が「誰の方向を向いている法案なのか」と失望感をあらわにするのは当然だ。
与党などには、規定により「性的少数者や支援団体からの過剰な権利要求に歯止めがかかる」との声がある。当事者を加害者扱いするような物言いは容認できず、審議を通じて改めてもらいたい。
性的少数者に関しては、同性同士の結婚を認めない民法などの規定は憲法に違反するとして、同性カップルが国に損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁が「違憲状態」と判断した。
全国5地裁で提起された同種訴訟で、4地裁が「違憲」または「違憲状態」と断じた。唯一「合憲」とした大阪地裁も、将来的に違憲となる可能性を指摘した。同性婚や性的少数者の法的地位を巡る流れが確認されたと言える。
国会は、苦しみ続ける当事者の願いを受け止める責務がある。
同性婚をはじめ性的少数者への差別解消につながる法整備を、一刻も早く、当事者の思いに添う形で進めてもらいたい。
