「現金受領が重大な違法行為であることを見失わせる恐れがある」と検察審査会は市民目線に立って強く批判した。検察はこれを重く受け止め、再捜査に臨まねばならない。

 2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で東京第6検察審査会が、公選法違反罪で実刑判決が確定した河井克行元法相から現金を受領した地元県議らに関する議決書を公表した。

 被買収容疑で告発され、不起訴となった県議ら100人のうち35人を「起訴相当」とし、46人を「不起訴不当」とした。これを受けて東京地検特捜部は計81人の再捜査を進めている。

 特捜部は20年7月、元法相と広島選挙区から出馬し当選した妻の案里氏=公選法違反罪で有罪確定=が買収を主導したとして、2人を起訴した。

 しかし多額の現金を受け取った県議らを含め受領側の刑事処分は見送った。受動的な立場だったと判断したためだ。

 公選法は現金を受け取った側も罪に問うと定めている。過去には数千円の受領で略式起訴したケースもある。

 特捜部が不起訴とした中には数百万円単位でカネを受け取った者もおり、全員を一律「おとがめなし」としたのは当初から疑問の声があった。市民団体は処分を不服として審査を申し立てていた。

 検審は(1)受領金額の多寡(2)公職に就いているかどうか(3)返金や寄付をしているかどうか-を中心に検討した。

 その結果、県議などの立場で10万円以上を受け取り、返金もしていない人は起訴すべきだと判断した。公職を辞任するなどした人は不起訴不当とした。

 有権者の中からくじで選ばれた検審が、検察の判断にノーを突き付けた。市民感覚を踏まえたものであり、当然の判断だ。

 特捜部が不起訴にしたのは、裁判で夫妻を有罪とするために、受領側の証言を得ようと事実上の司法取引を行ったからではないかとの疑念も出ている。

 特捜部は、検審の議決を真摯(しんし)に受け止め、公正かつ徹底的に再捜査する必要がある。

 一方、受領者側はカネを受け取ったことを認めながら公職にとどまっている者も多い。

 検審は、辞職していない場合「犯罪行為の重大性を認識しているか疑問だ」と批判した。

 政治家自らが民主主義の根幹である選挙をゆがめた罪は重い。深く反省し、進退を含めきちんと責任をとるべきだ。

 買収事件を巡っては、自民党本部から案里氏陣営に提供された1億5千万円の問題は未解決のままだ。このカネが買収の原資になったのではないかとの見方は払拭(ふっしょく)されていない。

 今回の議決後、岸田文雄首相は使途は解明されているとの認識を示し、調査の必要性については「党が既に説明している」と述べた。

 だが、自民党側のこれまでの説明は全く不十分で、国民の疑問に向き合っていない。

 説明責任から逃れることなど許されない。