犯罪被害者や家族のために十分な支援となっているのか。見直しでは当事者の実情に即し、支援の拡充を急ぐべきだ。

 政府は、犯罪被害給付制度に基づいて被害者や遺族に支払われる給付金の大幅な増額に向け、制度を見直すことを決めた。

 現行制度では事件当時の被害者の収入などを基に給付額を算定しており、収入が少ない場合は給付額は少なくなる傾向がある。

 政府は、給付金の拡充に向けて、民事裁判の損害賠償額の算定方法も参考にし、1年以内に見直し案をまとめる方向だ。過去の被害者にもさかのぼって適用することも検討してもらいたい。

 警察庁によると、2021年度の遺族への給付金は平均約664万円で、最高は2345万円だった。死亡時に最高3千万円が支払われる自動車損害賠償責任保険(自賠責)を下回っている。

 犯罪被害者と遺族の支援団体が昨年、岸田文雄首相に対し「殺人に対する補償が自動車事故の死亡よりも低額なのは合理性を欠く」と訴えたのも理解できる。

 26人が亡くなった21年の大阪・北新地のビル放火事件では犠牲者の多くは火元の心療内科で治療中で、休職・退職していた。今の算定方法では大幅に減額される。

 遺族が「あなたの家族の命は軽いのだと言われたように思った」と手記につづった心情を、重く受け止めてもらいたい。

 額だけでなく、支給までの期間短縮も課題に挙げられる。

 事件直後は葬儀費や休業による収入減などで経済的負担が重いケースが多い。21年度は申請から給付まで平均9・3カ月を要した。

 支援策の見直しでは、一時金的な面がある仮給付金のより速やかな支給や増額、対象者の拡大なども検討する。当事者らの要望に沿った改善が求められる。

 心身に傷を負った被害者や遺族が、警察の捜査や各種手続きなどの対応に追われ、疲弊していくことへの支援も必要だろう。

 事件直後から被害者の法的サポートができるよう被害者支援弁護士制度の早期導入を検討することは評価できる。

 捜査機関や報道機関への対応や、加害者側との交渉などを想定している。必要な手続きの対応を代行したり、助言したりする人がいれば、被害者は心強いはずだ。広く相談できる制度にすべきだ。

 今回、政府が支援策強化に乗り出したのは、被害者の声が高まり、共感の輪が広がったためだ。支援団体など現場の人手不足や財政難は深刻で、その支援にも力を入れるべきだろう。

 いつ誰が被害者や遺族の立場になるか分からない。安心して暮らせる世の中にするために社会全体で支える公助は重要だ。同時に、つらい境遇の被害者が立ち直れるように、地域でも寄り添いたい。