平和国家として歩んできた日本が変容したと受け取られることがないよう慎重な対応を求めたい。

 国内防衛産業を支援する生産基盤強化法が成立し、政府が法に基づく施策を実行するために定める基本方針案が判明した。

 強化法は製造工程の効率化やサプライチェーン(供給網)強化などの経費を政府が負担することが柱だ。有事の戦闘継続能力を保つために国の関与を拡大し、防衛産業の維持・活性化に努める姿勢を明確にした形だ。

 方針案には、事業継続が困難な場合は国が工場を買い上げ、必要なら新たな工場を建設することを明記した。

 背景には、国内企業の装備品事業からの相次ぐ撤退がある。近年、コマツが装甲車の開発から手を引き、三井E&S造船は艦艇事業を他社に譲渡した。

 防衛産業は国内企業にとって不採算部門で、撤退が続けば技術が衰退し、装備品が製造できなくなる可能性がある。

 昨年末には部品供給不足で自衛隊の一部戦闘機が稼働できていない実態が判明した。

 ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ、自衛隊の戦闘継続能力について弾薬の備蓄も不十分だと指摘された。課題解決には、国内での製造体制の維持が欠かせないとの判断があるだろう。

 今回の方針案では、輸出先の要望で装備品の仕様を変える経費を助成した後、輸出に失敗しても返還は求めないと明記した。

 中国や韓国による新鋭装備開発の成功への焦りもあり、防衛省幹部は「技術立国の日本にできないはずはない」と強調する。

 だが企業への特別扱いが過ぎれば官民の癒着を招きかねない。支援対象が「任務に不可欠な装備品」とされていることも、基準が曖昧で、負担が膨らむ恐れがある。

 心配なのは、提供する装備の範囲や輸出先が、なし崩し的に広がっていくことだ。

 政府は2014年に武器輸出三原則に基づく禁輸政策を転換し、装備品輸出を可能にした「防衛装備移転三原則」を定めた。

 昨年はウクライナ侵攻を受けて移転三原則の運用指針を改定し、従来輸出できなかった防弾チョッキを提供できるようにした。

 政府内でF15戦闘機のエンジンなど自衛隊で不用になった部品の輸出解禁案が浮上している。自民党内では移転三原則をさらに緩め、殺傷能力のある武器を提供できるよう求める声も出ている。

 そうした動きに不安を持つ国民は少なくない。しかし政府は、安全保障関連の情報公開に後ろ向きで、国会では野党の質問に「ゼロ回答」が目立つ。

 国民の不信を招かず、民間技術の防衛転用に理解を得るには、積極的な情報開示に努め、透明性を確保しなければならない。