ロシアがウクライナに侵攻するのではないかとの警戒感が米欧で強まり、緊迫した状況の打開に向けた関係国による話し合いが重ねられている。

 侵攻が起きれば深刻な軍事衝突を招きかねない。粘り強い対話で歩み寄りの道を探り、危機を回避してほしい。

 米欧が警戒するのは、ロシアがウクライナの国境周辺に10万人規模の部隊を集結させているためだ。

 バイデン米大統領は侵攻すれば第2次大戦後で最大の侵略になるとし、「世界を変える」などと指摘している。

 2014年2月のウクライナ政変で、ロシアはロシア系住民が多いクリミア半島に部隊を派遣して編入を強行した。

 ロシアは侵攻の意図を否定するが、こうした歴史を振り返れば米欧の警戒は無理もない。

 自らの振る舞いが脅威を与えていることをロシアは自覚しなければならない。

 偶発的衝突が、紛争につながる懸念もある。ロシアは兵を引き揚げるべきだ。

 一方で、ロシアには米欧や北大西洋条約機構(NATO)への不信感があるようだ。

 ロシアは緊迫するウクライナ情勢を巡って、米国に提案を行った。この中で、ロシアが求めたNATO不拡大の確約は拒否された。

 これを受けてプーチン大統領は「ロシアの主要な懸念は無視された」と、記者会見で強い不満を示した。

 プーチン氏はウクライナから編入したクリミア半島は「ロシアの主権が及ぶ領土」と強調。ウクライナがNATOに加盟し武力奪回を試みた場合にはロシアはNATOと戦うことになると指摘した。

 そしてNATO不拡大を求めるのはそれを避けるためだとしたが、あまりに身勝手な理屈としか思えない。

 ウクライナがNATOに加わるかどうかは、NATO加盟国とウクライナの意思によるべきだ。ロシアの提案を米国が拒んだのは当然だろう。

 ただし米国は核軍縮や軍事演習制限に関し協議を持ち掛けたとされ、これを糸口に緊張緩和を模索する方針という。

 ロシアも米側との交渉が続くとの見方を示したといい、協議の継続による情勢の好転に期待をかけたい。

 気掛かりなのはウクライナ情勢に関連し、ロシアと中国が米欧に対する共同戦線を張る形でNATOの東方拡大に反対を表明したことだ。

 プーチン氏は北京冬季五輪に合わせて訪中し、中国の習近平国家主席と会談した。その共同声明に、NATO拡大への反対が盛り込まれた。

 中国は台湾への強硬姿勢など覇権主義的な動きを強め、米国とは「新冷戦」と呼ばれる対立関係にある。

 中ロ両国の結束が米欧との緊張をさらに激化させ、プーチン氏が率いるロシアの強権的な動きを後押しすることにならないか。そこを憂慮する。