ウクライナを侵攻中のロシアで武装反乱が起き、プーチン大統領の威信は大きく傷ついた。首謀者は事実上亡命し、首都モスクワでの衝突は回避されたが、戦況への影響を注視する必要がある。
ロシアの民間軍事会社ワグネルが武装反乱を起こし、南部ロストフ州の南部軍管区司令部を制圧、モスクワに向けて一時進軍した。
ワグネル創設者プリゴジン氏は侵攻に参加するワグネル部隊がロシア軍に攻撃されたと訴え、「正義の行進」をすると宣言した。
これに対し、プーチン大統領は緊急テレビ演説で「裏切りと反逆に直面した」と厳しく非難し、鎮圧すると表明した。
モスクワ市長は対テロ作戦態勢を宣言し、市民に外出を控えるよう呼びかけた。ロシア南部が内戦の様相を呈したため、一時的に緊張が高まったといえる。
その後、プリゴジン氏が進軍停止を表明した。大統領側は武装反乱容疑での捜査を打ち切り、ワグネル戦闘員の刑事責任を問わず、プリゴジン氏は隣国ベラルーシに出国すると明らかにした。
ベラルーシ側は、ルカシェンコ大統領がプーチン氏との電話会談を受けてプリゴジン氏と協議し、進軍停止と緊張緩和の措置を講じることで合意したと発表した。
ルカシェンコ氏はプーチン氏の盟友で、プリゴジン氏とも20年以上の知人関係にあるため、仲介を名乗り出たのだという。
ロシアで内乱が起き、自国に影響することを恐れたのかもしれないが、政治的な立場を強めることに成功した構図だ。
一方でプーチン氏は、事実上の亡命で反逆を免罪した形だ。だがこの裁定には不満が残り、軍の士気が低下するとの指摘もある。
親密な関係だった「子飼い」の暴走を防げなかったことは、脆弱(ぜいじゃく)になった権力基盤をあらわにしたと言えるのかもしれない。
ロシアでは「私兵」組織や非正規部隊の武器保有は禁じられているが、ワグネルはプーチン氏との関係から黙認されてきた。
侵攻では正規軍の損失を抑えて国民の批判をかわし、残虐行為もいとわず「汚れ役」を担った。
戦果を上げ影響力を強めたプリゴジン氏は、弾薬が十分に供給されなかったなどとして国防省最高幹部と対立してきた。7月1日までに全ての戦闘員に軍との契約を求める命令も拒否していた。
反乱は存在感を保つための行動とも考えられ、軍に要求を迫ろうとした可能性もある。同調する動きが出るとは考えにくいが、プーチン体制に影を落とすことになったのは間違いない。
武装反乱の兆候を把握した米情報当局は、展開次第でロシアの核兵器管理が不安定化する懸念を抱いていた。不測の事態を避けるためにも、国際社会は緊密に連携していくべきだろう。
