当事者らが「戦後最大の人権侵害」と訴え続けた苛烈な被害が明らかになった。報告書を足掛かりにして国は被害者と向き合い、救済制度を拡充するべきだ。

 1948~96年の旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、国会の初の調査報告書がまとまった。

 2019年に議員立法で成立した被害者救済法に基づく。

 別の手術と偽ることを国が許容し、都道府県に件数を増やすよう求めるなど、国策として「子どもを産み育てる権利」を奪った実態を浮き彫りにした。

 報告書によると、不妊手術を受けた2万4993人のうち65%で本人が同意していなかった。

 福祉施設入所や結婚の前提条件とされ、盲腸の手術とだまして受けさせた事例などが確認された。旧法が禁じた放射線照射、子宮や睾丸(こうがん)の摘出も報告された。

 障害者らの人権を無視し、同意なく手術が行われていたことに改めて怒りを覚える。二度と繰り返さぬよう、私たちは負の歴史として心に刻まねばならない。

 当時、都道府県は優生思想を扇動し、宮城県は「悪貨が良貨を駆逐し、県民の質が低下する」と手術推奨の運動を展開した。本県も「不幸な子どもの生まれない施策」として推進した。

 「劣る」と判断された人の排除を意味し、非人道的な差別だと断言できる。障害がある子どもが不幸だと決めつけること自体、決して許されない。

 本来の行政は、障害の有無にかかわらず誰もが共生できる環境を整えることが役割のはずだ。

 旧優生保護法は「不良な子孫の出生防止」を目的に、議員立法により全会一致で成立した。批判的に審議された形跡はなかった。

 にもかかわらず、報告書が国や政治の責任の所在を明確にしなかったことには疑問が残る。

 一方、救済法は被害者に一律320万円を支払うが、ここでも国の責任は曖昧で謝罪には程遠い。

 各地で続く国賠訴訟で、賠償命令の出た判決の許容額は1500万円前後に上る。これと比べ、救済法の金額は十分とは言い難い。

 救済の請求期限は来年4月で、今年5月末までに認定されたのは1049人にとどまる。

 被害を認識していない人や、障害などへの差別・偏見から周囲に知られたくない人がいるとみられる。期限の延長が望まれる。

 訴訟では、手術などの不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用するかが大きな争点となっている。

 除斥期間の適用は「被害の重大性に照らし正義・公平の理念に反する」との判決もある。

 時の壁を盾とせず、国は人生を狂わされた被害者の求めに応じる責務がある。そのための調査報告書とするべきだ。