望まない妊娠を防ぐために有効な対策だ。女性の権利を守ることにもつながる。

 ただし現状では課題もある。丁寧に懸念を解消し、必要とする人が適切に入手できる環境を整えることが欠かせない。

 厚生労働省は、性交直後の服用で望まない妊娠を防ぐ、緊急避妊薬(アフターピル)を、一定要件を満たす薬局に限定し、夏から試験的に医師の処方箋なしでの販売を始めることを決めた。

 調査研究を来年3月まで進める方針だ。18歳未満にも販売する方向で検討する。

 望まない妊娠は学業やキャリア形成など女性の生き方に影響し、悩みを抱えて孤立に陥ることもある。女性の権利を保障する上でも早期市販化を求める声は強い。

 試験運用の対象となる薬局は、研修を受けた薬剤師が販売し、夜間や土日祝日の対応ができ、近隣産婦人科との連携やプライバシー確保が可能なことが要件となる。

 地域の偏りが出ないよう全都道府県で選定する。

 緊急避妊薬は、排卵を抑える働きがあり、性交後72時間以内に服用すれば約80%の確率で妊娠を防ぐ効果があるとされる。

 現在は、医師の処方箋があれば購入できる。近くに医療機関がない場合などはオンライン診療での処方も認められてはいる。

 ただ、性暴力被害や避妊失敗は夜間や休日にも発生するが、病院が休みだと診察を受けられない。対応が遅れれば、心身に負担が重い人工中絶に至る恐れもある。

 一方で、全面的な市販化に向けては課題もある。

 医師の診察を通さずに使用できると、性暴力被害がうやむやになりかねないという懸念がある。性感染症への対処や証拠物の採取といった大切な問題が後回しになる可能性も指摘される。

 服用で必ず妊娠を阻止できるわけではないことなど、正しい知識の普及も不可欠だ。

 乱用や、コンドームを使わなくなることで性感染症拡大の恐れもあり、性教育は重要性を増す。

 プライバシーに配慮したカウンセリングなど、相談体制も充実させるべきだ。

 現行法では、処方箋なしの薬局販売が可能になった薬は原則3年でインターネット販売も可能になる。購入者の状況確認や安全な使用方法が伝えられるかなど克服すべき点もある。

 日本では市販化に関し、2017年に、安易に販売される恐れや悪用などへの懸念で有識者から否定的な見解が示され、見送られてきた経緯がある。

 海外では既に約90カ国・地域で医師の診察なしで入手できる。日本の遅れは明らかだ。

 関係省庁は、民間団体などとの連携を密にし、さまざまな課題への対応策を練ってもらいたい。