当局の強権的な締め付けで、香港の言論や集会などの自由が封じ込められた。人権が侵害されて、息苦しさを増し、民主派と親中派の分断が深まっている。日々強まる「中国化」を憂慮する。
香港で民主派排除や反政府活動の取り締まりを目的とした香港国家安全維持法(国安法)が施行され、30日で3年になった。
国安法は、中国の習近平指導部が主導し成立した。国家分裂や政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託による国家安全への危害といった4種類の犯罪行為を処罰する。香港の治安維持を担う中国政府の出先機関も設置された。
3月時点で、国家安全に危害を与える活動に関わったとし計243人が逮捕され、うち約140人が国安法違反などで起訴された。
2020年に予定されていた香港立法会(議会)選挙では、民主派が実施した予備選に絡み、政権転覆を企てたとして47人が起訴された。主要な人物が大量に起訴され、民主派は息を潜める状態だ。
民主派支持者は「国安法で社会は変わった。政治の話はしない。何かの言動で通報されるのではとの恐怖がある」と話す。
19年に民主派が圧勝した区議会からも、民主派排除の姿勢が明らかだ。今年11月に予定される区議会選に向け、親中派が圧倒的に有利な制度に変える方針だ。
全体で9割以上あった直接投票枠を2割以下に削減し、残りの議席は行政長官が選ぶ。「もはや議会と呼べない」と議員経験者が憤るのは当然だ。
新聞やテレビに対する締め付けも強化した。批判的な論調だった蘋果日報(リンゴ日報)は廃刊に追い込まれた。政府高官の圧力が強まり、40年続いた風刺漫画の連載を終了した新聞もある。
主要メディアのほとんどが、当局の意向に沿った報道に終始し、言論の自由が失われているのは残念でならない。
天安門事件の犠牲者追悼は事実上禁じられており、発生34年になった4日には、1人が逮捕され23人が連行された。
驚いたのは、日本に留学中の学生が交流サイト(SNS)に香港独立を含む投稿をしたなどとして、香港に一時帰国した後に逮捕、起訴されたことだ。
国安法は海外での行為にも適用すると規定しているが、日本での適用は珍しい。海外在住者にも不安が広がっている。
こうした現状に多くの人が香港を離れ、旧宗主国の英国には1月末までに14万人超が移住した。香港社会の活力が失われていくことが心配だ。
当局は中国人の受け入れ策を進め、人口面でも「香港の中国化」が強まっている。
かつてのような民主主義を取り戻すため国際社会は声を上げ続けていくべきだ。
