認識が異なったままでは、人口が減り縮小する地域の移動手段を守る打開策は生まれない。将来も持続する路線とするには、双方に一層の知恵が求められる。

 乗客が減り赤字が続くJR大糸線で、糸魚川-南小谷(長野県)の在り方を巡る沿線自治体とJR西日本の隔たりが際立っている。

 活性化策の議論を先行させる沿線自治体に対し、JR西が「遺憾」と発言した。自治体が線路などを維持管理する「上下分離方式」や第三セクターなど、具体的な事例研究を始めるよう求めた。

 両者の協議が始まって1年が過ぎ、4月には地域公共交通再編に向けた関連法が成立した。経営が悪化するローカル鉄道を巡る協議を国が主導できることが要点だ。

 背景には、沿線自治体と鉄道事業者だけでは協議が進みにくいことがある。国が財政支援もすることで話し合いの進展を狙う。

 沿線自治体に向けたJR西の「遺憾」発言が出たのは、関連法が成立した翌5月の会合だ。

 沿線自治体には関連法成立を受けた発言だとの見方がある。国の政策を追い風に、上下分離方式や三セクなど事例研究が始まれば、自治体側の財政負担も議論の対象に見込まれるため警戒感は強い。

 発言を受け、長野県大町市の牛越徹市長は「事例研究は時期尚早」、糸魚川市の米田徹市長は活性化策の「結果を数字で見たい」と述べた。JRのペースで進まないよう、くぎを刺す狙いだろう。

 沿線自治体が活性化策の議論を優先することは当然だ。一方で、将来像の議論を先送りしているだけでは前に進まない。

 JR西が議論を急ぐ一因に大糸線の厳しい現状がある。

 2021年度の1キロ当たりの1日平均乗客数は55人。19~21年度平均の収支は6億3千万円の赤字で、100円を稼ぐのに4295円を要した計算になる。

 沿線は人口減少が進む。地元住民にとって重要な生活路線だが、日常利用だけで乗客数増加は見込みにくい。

 沿線自治体が注目し、力を注ぐのが観光利用だ。感染禍からの回復基調にある。来春に控える北陸新幹線の福井・敦賀延伸を契機に関西からの誘客も期待する。

 本年度は訪日外国人向けの臨時列車や、沿線を周遊するスタンプラリーなどに取り組む。JR西に対し、踏み込んだ協力を求める意見もあるという。

 公共交通の維持は世界共通の課題だ。先進7カ国(G7)交通相会合は閣僚宣言で、人口減少地域を含め誰もが利用できる移動手段の提供が重要だと強調した。

 大糸線沿線自治体とJR西が、話し合いを重ねて溝を深めるのでは元も子もない。肝心なのは双方の歩み寄りだ。「公共交通をどう維持するのか」という原点を最優先した協議が求められている。