新型コロナウイルスの変異株オミクロン株による感染拡大で、抑制効果が期待されるワクチンの3回目接種が思うように伸びていない。
事態を受けて、岸田文雄首相は7日の衆院予算委員会で「1日100万回」の数値目標を掲げ、2月後半には実現するとの見通しを示したが、与野党の追及を受けた後の表明で「後追い感」が拭えない。
ウイルス対策について首相は「最悪の事態に備える」としている。首相はその言葉通りに、先を見据えた先手の対策を講じてもらいたい。
ワクチン接種を巡って政府は当初、3回目の接種は2回目から8カ月後としていたが、オミクロン株の感染急拡大に伴って6カ月後に前倒しした。
現在は医療従事者や65歳以上の高齢者への3回目接種が本格化しているものの、完了者は7日公表時点で全人口の5・9%にとどまっている。
国会の論戦では、接種率の向上に向けて与野党双方が数値目標を明示するよう求めたが、首相は「先頭に立って接種の取り組みを進める」と述べるにとどめ、消極姿勢を通していた。
背景には、1日100万回接種を打ち出し、実現させた菅義偉前首相と比べられることを警戒したとの見方がある。
それが突然、「1日100万回までペースアップを目指す」と転換したのは、接種が進まないことに首相が危機感を強めたからだろう。接種の遅れで感染拡大が長引けば、政権の屋台骨が揺らぎかねない。
だが大事なのは政治的な駆け引きではなく、感染拡大から国民をどう守るかだ。首相はそのことを忘れないでもらいたい。
接種が伸びない背景には、前倒し対応に自治体の準備が追い付かなかったことのほか、1、2回目と異なる種類のワクチンを打つ「交互接種」に対する警戒感も指摘されている。
首相は自らワクチンの交互接種を受け、安全性をアピールしたが、不安を払拭(ふっしょく)するにはそうした行動だけではなく、具体的なデータを示して丁寧に説明する姿勢が大事だろう。
厚生労働省は5~11歳へのワクチン接種について、3月にも始める方針を決めている。だが健康な子どもは重症化しにくく、接種の対象とすることを疑問視する声もある。
保護者らが子どもの接種について適切に判断できるように、政府は副反応などについてのデータもまとめ、理解しやすい形で国民に示してほしい。
県内では感染者数の高止まりが続き、中等症患者も増えている。本県などに適用されているまん延防止等重点措置は13日が期限となっているが、県は8日、政府に延長を要請した。
政府は3週間を軸に延長の調整を進める方針だ。
感染の中心は若年層から子どもや高齢者に移ってきたが、高齢者に感染が広がると重症者数の増加が続く恐れがある。油断せず、感染を拡大させないための取り組みを続けたい。
