日本経済が緩やかに回復していることを印象づけた。ただし、先行きは楽観できない。物価と賃金の上昇で好循環を実現し、景気の回復基調を持続させたい。
日銀が発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業の業況判断指数(DI)が3月の前回調査から4ポイント上昇のプラス5となり、1年9カ月(7四半期)ぶりに改善した。
宿泊・飲食サービス、レジャー施設などを含む大企業非製造業のDIは3ポイント上昇のプラス23で、5四半期連続で改善した。
DIは業況が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた割合を引いた数値で、プラスは景況感が良いと感じる企業が多いことを示している。
製造業の改善は、世界的な半導体不足の緩和で自動車生産が回復したほか、原材料価格の上昇が一服したことが寄与した。
非製造業では、新型コロナウイルス感染症の5類移行で経済の正常化が進んだことや、インバウンド(訪日客)増加で国内旅行の需要が拡大したことが大きい。
代表的指標の大企業製造業が改善に転じたことは、日本経済に明るい兆しが出てきたといえる。
コスト上昇分の価格転嫁が進むとともに、仕入れ価格が下がったことで収益が改善した面もある。成長戦略を描き、設備投資や雇用を増やすことに期待したい。
日銀新潟支店が発表した県内企業短観は、全産業のDIが0となり、4年3カ月(17四半期)ぶりにマイナス圏を脱した。
新型ウイルス禍前の水準に改善した。飲食や宿泊などの非製造業が景況感をけん引した。
だが、全国的に好調な自動車関連の比率が低い製造業は、一部の半導体需要が低迷した影響などでマイナス4に悪化した。
米欧の急速な利上げを背景にした世界経済の減速が気がかりだ。足元の円安進行がエネルギーや原材料価格を再び押し上げることへの警戒感もある。
一方、非製造業では物価高が続くことで家計の節約志向に伴う消費低迷が懸念される。今年の食品値上げは昨年を大幅に上回る3万5千品目程度に達する見通しだ。
厚生労働省が公表した4月の実質賃金は13カ月連続のマイナスとなり、物価上昇に賃金の伸びが追い付かない状況が続く。
訪日客でにぎわう宿泊業界などでは人手不足が深刻で、受け入れ態勢が整わなければ「需要の取りこぼしで業績が想定より伸び悩む可能性がある」との声も上がる。
全国の短観では、大企業非製造業で雇用人員の不足感の強さが際立った。新卒採用での人材の奪い合いも激化し、人手不足が景気回復に水を差す恐れもある。
国内外にある景気減速リスクに注意しながら、力強い日本経済の再生を目指していきたい。
