マイナンバーに対する国民の不安は拡大する一方だ。しかし政府は、メリットを強調する姿勢ばかりが目立ち、不安解消に力を尽したとは言い難い。
衆院特別委員会は5日、トラブルが相次ぐマイナンバーに関し、閉会中審査を開いた。
焦点となったマイナ保険証を巡り政府は来年秋に現行の健康保険証を廃止する方針を示している。
これについて、立憲民主党の委員は保険証廃止をいったん立ち止まるべきだと主張した。
加藤勝信厚生労働相は「不安や懸念を払拭しメリットを理解してもらう」と述べ、廃止方針を譲らなかった。
政府はマイナンバーカードの作成に関し、設定や管理に不安がある認知症などの人を対象に、暗証番号の設定なしでも交付を認めることも表明した。主にマイナ保険証での使用を想定した対応だ。
トラブル続出を受け、政府は、カード取得者向けサイトのマイナポータルで閲覧できる児童手当や生活保護といった全29項目の総点検を決めた。今秋までに結果をまとめる方針だ。
ただ、マイナ保険証に別人の医療情報がひも付けられる問題に関し、健康保険組合など全国3411団体のうち293団体で、住所を照合しないなど手順が不適切だったことが新たに判明した。
正確な作業だったか確認できない部分があったと回答した団体も含めると、全体の4割近くを占めることも明らかになっている。
全国各地でカードを自主返納する動きが広がっている。本県でも9市で計31件が確認されている。
総点検について河野太郎デジタル相は特別委で「国民の信頼を確保するためにスピード感を持って政府を挙げて進める」と述べた。
だが、点検作業は膨大で、自治体などには負担が大きい。日程ありきではさらなるトラブルを招きかねない。急ぐより、時間をかけて丁寧に進めるべきだ。
カードを巡るトラブルはさみだれ式に発覚している。公金受取口座の誤登録、マイナポータルでの他人の情報閲覧などだ。健康や財産に関わる貴重な個人情報で、国民の不信が高まるのは当然だ。
不信解消の一案として、河野氏は2日のNHK番組で、2026年度のカードデザイン変更を念頭に「次の更新でマイナンバーカードという名前をやめた方がいいのではないか」と語った。
課題に向き合うというより、名称変更で負のイメージの払拭を狙っているように受け止められても仕方がない。
マイナ保険証への一本化には、デメリットを感じる国民が多いに違いない。
政府は、山積する課題を解決し、国民が安心できる状況になるまでは、健康保険証廃止を先送りすることも検討すべきだ。
