反転攻勢が思うように進まない中での苦渋の支援策とはいえ、非人道性が高い兵器の供与は避けるべきだ。紛争終結後も民間人が犠牲になる恐れがあり、被害の拡大や長期化に懸念がある。

 ロシアによるウクライナ侵攻は開始から500日を超え、ウクライナが反転攻勢に乗り出してから1カ月が過ぎた。

 しかし地雷原や砲撃などロシア軍の激しい抵抗に阻まれて苦戦し、進軍は想定より遅れている。

 そうした中で米国は、ロシア軍の塹壕(ざんごう)への攻撃に有効だとして、殺傷能力が高いクラスター(集束)弾の供与を決めた。ウクライナが要請していた。

 クラスター弾は、親爆弾の中に詰められた多数の子爆弾を空中でまき散らし、広範囲を攻撃する。ただ不発率が高く、紛争終結後を含めて民間人の長期的な被害を招くと問題視されている。

 ウクライナでは「弾薬が戦争の鍵を握る」と言われるほどの消耗戦になっている。

 一方米国では、これまでの支援で通常弾薬の在庫不足が顕在化し、生産が追いつくまでの供給継続が懸案になっていた。

 クラスター弾供与は、ウクライナの兵器備蓄が枯渇した場合に限り「最終手段」とされており、バイデン米大統領は供与についてテレビのインタビューに「非常に難しい決断だった」と述べた。

 だがクラスター弾は、オスロ条約で使用や製造、貯蔵が全面的に禁じられた非人道的な兵器であることを軽視してはならない。

 ウクライナを支援する北大西洋条約機構(NATO)でも、英国やイタリアなどオスロ条約参加国は、供与に賛同していない。この兵器の脅威を踏まえれば当然だ。

 米国やロシア、ウクライナは条約に参加していない。

 米国は、侵攻直後からクラスター弾を多用してきたロシア軍を、「戦争犯罪の可能性がある」と非難してきたのではなかったか。

 供与に転じれば、ロシア軍を非難できる立場ではなくなる。

 ウクライナの国防相は都市地域で使用しないなどと主張し、米国側は、ウクライナ政府が民間人被害のリスクを最小化すると文書で確約したと説明する。

 ロシアのクラスター弾の不発率が30~40%なのに対し、米国が提供するものは2・5%以下だとし、国際社会に理解を求めている。

 たとえ確率が低くても、一部は不発で残る。「戦闘地域に残された民間人や、避難先から将来帰還する地元住民への危険を増加させる」と米シンクタンクが批判するのはもっともだ。

 松野博一官房長官は記者会見で、米国の供与について受け止めを問われたが、反対しなかった。

 オスロ条約参加国として、日本はクラスター弾の供与に決然とした態度を取るべきではないか。