性的少数者が抱える不利益を、不当に軽んじてはならないと断じた。判決を誰もが安心できる社会づくりの契機にしたい。

 戸籍上は男性で、女性として暮らす性同一性障害の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は制限を認めないと判断した。

 自認する性別が出生時と異なるトランスジェンダーなどへの十分な配慮の必要性を示すものだ。性的少数者の職場環境の在り方を巡る最高裁の初判断となる。

 訴えた50代の職員は、入省後に性同一性障害と診断された。長年女性ホルモンの投与を受け、容姿は「女性」と認識される可能性が高いという。健康上の理由で性別適合手術は受けていない。

 2010年から許可を得て女性の身なりで勤務していたが、女性用トイレについては、他の女性職員との間にトラブルが生じる恐れがあるとして、勤務するフロアから上下2階以上離れた場所での使用しか認められなかった。

 判決は、職場でトラブルがなかった状況などを考慮し、職員が自認する性と異なる男性用か、離れた女性用しか使えずに、日常的に不利益を受けたと指摘した。

 トイレの使用は誰にとっても不可欠だ。長年制限を受ける苦痛は生理的にも精神的にも大きい。

 だが経産省は、10年7月に職員の性同一性障害に関する同僚への説明会が開かれた後も、処遇見直しを検討しなかった。組織の中で性的少数者が声を上げる困難さへの想像力を欠いた対応だ。

 職員に対し上司が「もう男に戻ってはどうか」と発言したことも、人格や尊厳を否定するもので、聞き流すわけにはいかない。

 職員は制限を不服として人事院に行政措置要求を申し立てたが、15年に退けられた。

 判決はこの人事院判定も違法とした。具体的な事情を踏まえずに同僚らへの配慮を過度に重視し、著しく妥当性を欠くと指摘した。

 国家公務員の人事管理を担う機関として、人事院は重く受け止めてもらいたい。

 判決により今後、職場の管理者らが性自認に基づくトイレ使用を不当に制限した場合は、法的問題が生じる可能性がある。

 一方、裁判長が補足意見で、不特定多数が使う公共施設などを想定した判断ではないとし、そうした点は改めて議論されるべきだとしたのは重要な提起と言える。

 性自認に基づくトイレ利用には、不審者の侵入を招くと懸念する声は一部ある。

 誰かが不利益を甘受する形で課題解消を図るのでは本末転倒だ。人権と尊厳を守り、性暴力を防ぐ視点で解決策を探るべきだ。

 性的少数者を排除せず、共に知恵を出し合う必要がある。