風評を払拭する上で追い風となる決定だ。引き続き安全性に関する情報を丁寧に発信し、日本産食品の販路拡大を図りたい。

 欧州連合(EU)が、2011年の東京電力福島第1原発事故後に、日本産食品に課してきた輸入規制の撤廃を発表した。

 米国や英国などに続くもので、8月3日に実施される。

 本県や福島県など10県の一部食品に義務付けられた放射性物質の検査証明書が不要になる。

 証明書発行の手間が省けるだけでなく、食品の輸入規制が厳しいEUに輸出できるようになれば、他の地域にも売りやすくなる。決定は朗報と言っていい。

 EUへの農林水産物・食品の輸出は、22年に680億円と10年前の3倍以上に伸びている。規制撤廃で一段と拡大が期待され、農産品の生産が盛んな被災地の復興を後押しすることにもなるだろう。

 農林水産物輸出の好調ぶりは本県でも顕著だ。

 アジア向けが主流だが、22年度は加工品を除く県産農林水産物の輸出額が49億1千万円となり、2年連続で過去最高を更新した。

 輸出額の6割超を占める錦鯉が好調で、鶏卵などの新たな輸出ルートも開けた。県が24年度に50億円としていた輸出目標を、2年前倒しでおおむね達成した。

 規制撤廃を足がかりに、本県も主力のコメや青果物のさらなる販路開拓を図りたい。それには輸出に取り組む生産者の裾野を広げていくことが欠かせない。

 輸出規制を維持するのは中国や韓国など11カ国・地域まで縮小する。さらにEUと同じ規制を適用するアイスランドとノルウェーが撤廃に動く可能性がある。

 気がかりなのは、日本政府と東電が夏ごろ開始としている原発処理水の海洋放出計画の影響だ。放出に反発する中国や香港が、輸出規制強化の構えを見せている。

 農林水産物・食品の最大の輸出相手国である中国が規制強化に動けば、影響は大きい。

 EUが科学的なデータを基に安全性の確認に至った一方で、中国や韓国との撤廃交渉は、科学的見地から説得するだけでは進まない可能性が高い。

 中国政府は処理水放出への反対に加え、経済安全保障などを巡って米国寄りに立つ日本との間で緊張を高めている。

 韓国とは戦後最悪と言われた関係が改善に向かっているものの、歴史問題を巡る根深い対立が影を落としている。

 理解を得るには、各国の思惑に振り回されない地道な外交努力が求められる。

 国内外の風評を防ぐため、水産庁は処理水放出時に、水産物の放射性物質調査をし、分析結果を迅速に公表するとしている。

 丁寧に分かりやすい表現で、安全性を説明してもらいたい。