本人や家族の声を聞き、どれだけ施策に反映させることができるか。それが高齢社会日本の暮らしやすさを左右する。
認知症基本法が成立した。「認知症の人が尊厳を保持し、希望を持って暮らすことができるよう、施策を総合的に推進する」ことを目的に掲げる。認知症の人が社会参加する機会を確保することなどを盛り込んだ。
関連施策の充実を図るため、本人や家族の意見を反映させることを柱に据えた。首相を本部長とする施策推進本部を設置し、その中に家族らの意見を聞く関係者会議を設ける。
基本法成立を受けて、当事者団体は記者会見し「大きな一歩」と歓迎した。
誰でも認知症になり得る。2025年には高齢者の約5人に1人がなるとの推計もある。
家族だけで悩みを抱え込むことは避けなければならない。
親を介護するために仕事を辞める人がいる。家庭内で抱え込み、誰かに相談する心の余裕がなくなると、虐待につながる恐れがあると指摘される。
そうした苦しみを生まないための仕組みが欠かせない。
介護のプロの力を借り、家族は要介護者に対し愛情表現ができる心の余裕を持つことが大切だと説く専門家もいる。そうした声に耳を傾けたい。
基本法が定めた「相談態勢の整備」を急ぐべきだ。
さらに、介護職に頼るだけでなく、広く社会全体で支える体制を築きたい。
認知症やその疑いで行方不明となる人が増えているからだ。22年に全国の警察に届け出があったのは延べ1万8709人で、前年から約千人増えた。この10年間でほぼ倍増となった。
本県は204人。このうち183人の所在は判明したが、13人の死亡が確認され、8人が未解決となっている。
警察や町内会、交通機関といった組織の連携により捜すことも求められる。
何より、困っていそうな人に声をかける心を持ち合わせたい。そのためにも一人一人が認知症への理解を深める必要がある。
製薬大手エーザイなどが開発したアルツハイマー病治療薬レカネマブが米国で本承認された。日本での承認は秋に結論が出るとみられ、10年以上なかった新薬登場への期待は高い。患者や家族の負担軽減につなげてもらいたい。
基本法を巡っては、今後、関連施策の基本計画を作ることになる。国だけでなく、地方自治体での計画策定が努力義務になった。
当事者団体からは「自治体が策定する具体的な施策についても当事者の意見を取り入れてほしい」との声が上がっている。その思いを本県でも重く受け止めたい。
