安全保障政策の事実上の転換が与党の一部議員の議論で決められることには違和感がある。一定の歯止めがかかっていた武器の輸出が、なし崩し的に緩和されることも懸念される。
自民党と公明党は、防衛装備品の輸出ルール見直しを巡る実務者協議で論点整理をまとめた。現行制度で定められた「警戒」など非戦闘5分野に該当すれば、殺傷能力のある武器を搭載した装備の輸出を容認する方向で一致した。
5分野は警戒のほか、「救難、輸送、監視、掃海」で、機関砲を搭載した偵察警戒車や輸送艦、掃海艦などが輸出可能になる。
政府は従来、人の殺傷や物の破壊を目的とする武器の移転は「現行の運用指針上、共同開発・生産に限定」とし、5分野に該当しても殺傷能力のある武器は輸出できないとしてきた。
武器輸出に対する国民の抵抗感を配慮し、抑制的な立場を取ってきたからだ。
しかし政府は今春の与党協議で、輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」や運用指針に禁止規定がなく、輸出可能と説明した。
政府は国民への説明もなく、水面下で一方的に解釈を変更したことになる。国会で示し、与野党で徹底的に論議すべき重要なテーマのはずだ。
政府の解釈変更を受け、与党協議は自民の輸出拡大論が勢いづいた形で進められた。
5分野については、ニーズに対応できなくなるため類型を撤廃すべきだとの意見があった。
三原則の輸出目的に、ロシアのウクライナ侵攻を受け、「侵略や武力行使・威嚇を受けている国への支援」との趣旨を書き込むべきだとした。
英国、イタリアと開発する次期戦闘機を念頭に、国際共同開発する装備の第三国への輸出を認める意見も大勢を占めた。
日本製の武器が使用目的を逸脱し、輸出先で紛争に使われる恐れもある。戦後、国際社会で培ってきた平和国家としての信頼が崩れかねない。
「平和の党」を掲げてきた公明党の姿勢も問われるだろう。
日本は長い間、事実上の禁輸政策である「武器輸出三原則」を取り、2014年に当時の安倍内閣が「防衛装備移転三原則」に変えたが一定の歯止めになっていた。
だが、昨年末の安保関連3文書の改定で防衛装備品の輸出が「重要な政策的手段」になった。先の国会で国内の防衛産業を支援する生産基盤強化法が成立したことも、緩和を後押ししている。
政府は論点整理を受け緩和策の検討を本格化させる。与党は秋以降に協議を再開し、政府案の提示を受けて妥当性を議論し、岸田文雄首相への提言を目指す方針だ。
政府与党だけでなく、広く国民を巻き込んだ議論が欠かせない。
