子どもの頃、とびきりのおやつと言えば祖母が作ったおにぎりだった。学校から帰り、夕食までには少し時間がある。そんな時、ぬらした手に塩を乗せ、炊いたばかりのご飯を握ってくれた
▼炊きたての熱々をものともせず、きゅきゅっと握る。それでも祖母は涼しい顔だった。少し固めに握ったコメは、表面がつやつやで輝いて見えた。極めてシンプルな「塩むすび」。まだ湯気を上げていたそれは、理屈抜きでうまかった
▼家庭の味だったおにぎりだが、今や、すっかりスーパーやコンビニでの存在感が高まった。近ごろは専門店のオープンが相次ぐ。県内でも新潟市をはじめ、各地で出店が続いている。専門店は、全国的にもブームの様相を見せている
▼具材も多様だ。複数を組み合わせるのも、はやりらしい。サケと卵黄が同居したり、豚そぼろと野沢菜がタッグを組んだり。あふれる個性をコメとノリが優しく包む。交流サイト(SNS)への投稿を見越し、三角むすびのてっぺんに具を乗せるなどして写真映えにも気を配る
▼コメは小麦に比べ価格変動が少なく、店舗スペースも比較的小規模で済む点が開業の追い風になっている。半面、開業のしやすさは維持の難しさの裏返し。専門店らしさ、質の高さが求められる。先日の本紙には専門家のこんな声が載っていた
▼コメどころの本県勢には望むところだろう。おにぎりの持ち味は、多様な具材を受け止める懐の深さ。自由自在なアイデアで新潟のコメをいっそう売り出したい。