世界的な食料危機を招きかねない行動だ。ロシアには早期の合意復帰を求めたい。

 ロシアは侵攻を続けるウクライナからの黒海を通じた穀物輸出に関して、両国とトルコ、国連による4者合意の延長に同意しないことを表明した。事実上の合意離脱とみられる。

 世界有数の穀物輸出国であるウクライナからの輸出が停止されれば、小麦などの国際価格が再び高騰し、ウクライナ産への依存度が高い中東やアフリカ諸国で食料危機の懸念が再燃する恐れがある。

 ウクライナからの輸出は、昨年2月にロシア軍が黒海を封鎖して停滞したが、昨年7月の4者合意を受け、翌8月から再開した。

 国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数は昨年3月の過去最高値から、侵攻前より低い水準に下がり、国連は合意が価格押し下げにつながったとしている。

 だが今後は見通せない。国連のグテレス事務総長は、合意の仕組みが破綻すると「弱い立場にある人々が打撃を受ける」と訴える。

 一般的に収入水準が低いアフリカでは、家計支出の約42%を食料が占め、生活に余裕がない。

 新型コロナウイルス禍から続く経済低迷で人々の不満は蓄積している。さらなる食料価格高騰が、政情の混乱を招く恐れもある。

 国連安全保障理事会の公開会合で、日米欧が「世界の他の地域を人質にしている」などとロシアを非難したのは当然だろう。

 ロシア側は、合意延長に応じない理由に、合意の一部である自国産穀物・肥料の輸出正常化が実現していないことを挙げている。

 ロシア農業銀行が、国際決済のネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から排除されて決済ができず、輸出の支障になっているためだ。

 ロシア国内では、現行の同意について、経済が崩壊状態のウクライナにとって戦費調達に重要な穀物輸出を、ロシアが支える形になっているとして「無意味な利敵行為」といった批判も出ていた。

 欧米の兵器供与を受けるウクライナの反転攻勢で停戦の見通しが立たない中、一方的にウクライナの利益になっている合意延長に応じる理由がなくなったとのプーチン大統領の判断がある。

 しかし、そもそもロシアが侵攻しなければ、SWIFTからの排除もなく、混乱はなかった。

 農林水産省によると、日本の小麦輸入は米国やカナダ産が主体で、直ちに供給に支障が出る状況にはない。とはいえ、価格面の影響などが懸念され、注視が必要だ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は動画声明で、黒海を通じた穀物輸出は「ロシア抜きでも機能する」と述べ、トルコと国連に継続を要請したと明らかにした。

 国際社会は食料危機回避へ連携し努力していくことが不可欠だ。