徹底的に検査し、ミスが続発する原因や課題を明らかにしなければならない。独立した組織による厳格な調査を、国民の不安払拭につなげてほしい。

 マイナンバーに別人の公金受取口座を誤登録するミスが相次ぎ個人情報が漏えいした問題で、政府の個人情報保護委員会がデジタル庁への立ち入り検査を始めた。

 ミスが多発した自治体窓口の共有端末での手続きで、デジタル庁が操作手順を徹底していたかを点検するほか、リスク管理の適切さなどを確認するとみられる。

 委員会は内閣府外局の行政委員会に位置付けられ、政府の意思に左右されない調査が可能だ。

 再発防止や個人情報の適切な取り扱いを求める指導や助言、悪質性の高い違反行為に是正を求める勧告といった行政指導に踏み切ることも視野に入れている。

 マイナ制度を直接所管するデジタル庁に行政指導が行われれば、極めて異例の措置となる。全国民の個人情報管理体制が問われる事態に発展する。

 底なしのトラブルに対し、国民は厳しい目を向けている。委員会は緊張感を持ち、積極的に実態解明へ動いてもらいたい。

 デジタル庁を巡っては、発足当初から、各省庁職員や民間エンジニアらの寄り合い所帯で風通しが悪いと指摘されている。

 その特殊性が、公金受取口座の誤登録などで他省庁の情報提供を受けながら、幹部への報告が大幅に遅れた背景にあるとみられる。

 委員会幹部は「単純なミスと見るのではなく、運用体制や組織的な要因をしっかり調べることが重要だ」と述べた。

 組織の体質、他省庁や自治体との連携も検証が不可欠だ。

 一連の問題を受けて、岸田文雄首相は6月中旬、関連データやシステムの総点検実施を表明した。

 しかしその後、身体障害者手帳などのひも付けミスが判明した。委員会が検査を始めた今月19日には、他人口座への誤入金があったことが初めて明らかになった。

 政府は総点検について、8月上旬に中間報告、秋をめどに最終報告をまとめる構えだ。

 ただ、総点検後に新たな問題が出てくる可能性は十分ある。

 共同通信社の世論調査では、政府の総点検では「解決しない」との答えが約75%に上る。

 制度への不信からマイナカードを自主返納する動きもあり、世論調査では将来的なカード保有に、60代以上の4割近くが「返納するか更新しないつもり」「今後も取得しないつもり」としている。

 河野太郎デジタル相は返納は「本当に微々たる数だ」と述べ、少数にとどまると主張する。

 この問題に対する不安の根強さを、政府はもっと真摯(しんし)に受け止めるべきだろう。国民の不信を過少評価してはならない。