同業者の集まりで東北の男性と隣り合わせた。その人が手帳をポンと机に置いた。表紙に目が留まる。思わず指をさしてしまった。「それ、長岡の花火では?」。正解だった。長岡花火を表した貼り絵が表紙になっていた

▼聞くと、美術展の案内チラシの絵柄が気に入って、切り抜いて表紙に仕立てたという。貼り絵は夜空に大きな花火が咲いている。本県の風景に引かれ、わざわざ表紙に用いてくれたのがうれしい

▼絵を残してくれた天才画家に感謝しなければならない。作者はもちろん山下清氏だ。1922年、東京浅草の生まれだと紹介されるが、本籍は佐渡、遺骨が眠るのも島の墓地だと伝わる。母が佐渡の人だった

▼生誕100年の記念展が昨年から各地で開かれている。先日、東京展に立ち寄ってみた。入り口に貼られたポスターの絵柄は代表作「長岡の花火」。順路を進むと、人垣のできた作品があった。やはり長岡の花火だ

▼若い女性は声が弾んでいる。「これが見たかったの」。驚いたような声も上がる。「何人いるの?」。確かに、貼り絵の中で夜空を見上げる人々の数は無数で数え切れない。「すごすぎる」。そんな感嘆を聞くと「新潟県の画家ですよ」と伝えてみたくなる

▼画伯の人気は年を経て増しているのではないか。猛暑の平日に、あれだけの集客があるのはすごい。ひときわ輝くのが本県ゆかりの作品であることがうれしい。「日本のゴッホ」とか「放浪の天才画家」と称されるが「新潟の」と呼びたくなる。

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