検察に有利な証拠を引き出すために供述を誘導するのは、適正な捜査とは言い難い。最高検は徹底的に調査し、問題点を明らかにしてもらいたい。

 河井克行元法相が実刑となった2019年参院選広島選挙区の買収事件で、東京地検特捜部の検事が、被買収側として任意聴取した元広島市議に、不起訴を示唆した上で、現金は買収目的だったと認めさせるかのようなやりとりをしていたことが分かった。

 録音データが残されており、検事が「全面的に認めて、反省していることを出してもらい、不起訴であったり、なるべく軽い処分というふうにしたい」と発言した。

 事実と異なるまま進む取り調べに疑問を感じた元市議が、自己防衛のために録音したという。

 聴取対象者に、供述内容による利益を約束するような取り調べは、供述の任意性を失わせるため、あってはならない手法だ。

 捜査は元法相の立件ありきで進められ、現金を受領した地元議員らの供述が重視された。

 そのため検察側に有利な証言を得る「裏取引」があったのではないかと捜査段階から疑われた。録音データはその一端だろう。

 検察が元法相夫妻を逮捕・起訴する一方、元市議を含め受領した100人を一律不起訴とした当初の判断も、事実上の司法取引との印象を持たせた。

 検察審査会が不起訴処分の100人の大半を「起訴相当」または「不起訴不当」とし、その後の再捜査で検察は処分を一転したが、「取引や約束をした事実は一切ない」とし、全面否定していた。

 しかし被買収側の公判では、元市議と同様に、供述を誘導されたとの主張が法廷で相次いでいる。

 最高検は録音を把握し、問題点を調査するという。利益誘導の有無や、供述の任意性が焦点となる。録音された聴取内容の調査にとどめず、こうした手法が容認された背景など、捜査の構造的問題も検証するべきだ。

 録音データには、元法相の公判担当検事が元市議に、不本意な形で作成された自白調書に沿って買収されたと証言するよう求めたものもあった。

 事件のストーリーを決め、それに合う供述を得る特捜部特有の捜査手法は以前も問題になった。

 近年は客観証拠になるパソコンのデータ解析などを重視し、「供述にはこだわらない流れが定着している」と検察幹部は話すが、今回の事件は乖離(かいり)している。

 10年に厚生労働省局長が逮捕・起訴された事件では無罪判決後に大阪地検の証拠改ざんや隠蔽(いんぺい)が発覚し、検察は取り調べの適正化に取り組んできたはずである。

 検察の体質は本当に変わったのか、改めて問われている。公正で公平な捜査機関としての信頼が失われてはならない。