対外的に重要な外相のポジションを1カ月も空席にし、唐突に解任するのでは、国際社会の信用を得られない。解任理由も説明せず、透明性の低さを露呈した。

 中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が、動静不明が約1カ月続いていた秦剛外相の解任を決めた。事実上の更迭で、外相が半年余りで交代するのは極めて異例だ。

 秦氏は、習近平国家主席が3期目の指導部人事を腹心で固める中で抜てきされ、昨年12月に外相に就任した。異例のスピードで出世してきた人物だ。

 政治的地位は高くないとはいえ、外相は外交の顔であり、要職であることは間違いない。

 しかし今年6月25日を最後に公の場に姿を見せなくなった。

 新型コロナウイルスに感染したとの報道や、女性問題で調査を受けているとの情報が流れ、さまざまな臆測が噴出している。

 国営通信新華社は秦氏が解任されたと伝えたが、その理由や、兼務していた国務委員も解任されたかについては触れていない。

 習氏の任命責任にも関わる問題で、政権側が真相を明らかにする見通しはない。

 ただ重用した習氏には痛手となる。人材登用の手腕に疑問符が付くのは必至だからだ。

 3月に本格始動した3期目の習指導部は、国際的な影響力拡大を狙い、秦氏も深く関わって積極的な外交を展開した。

 サウジアラビアとイランの国交正常化の仲介に成功したことをはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻や中東和平などの仲介外交に意欲を見せていた。

 だが秦氏の動静が突然途絶えて以降、英外相ら複数の欧州の外交当局者が訪中を延期するなど、影響は拡大している。

 対立が激化する米国との首脳会談開催に向けた調整や、改善が見通せない対日関係への対処など、外交課題が多岐にわたる中で、懸念が広がるのは当然だ。

 習指導部は事態の収拾を急ぎ、後任に、外交担当トップの王毅共産党政治局員を任命した。

 外相経験が長い王氏を再起用する人事は、信頼できる人材が少ない現状を映し出すかのようだ。

 秦氏は4月に北京で林芳正外相と会談した際に、就任後初となる日本訪問への意欲を伝えていた。日中関係の安定化を図る上で関係強化が期待されていた。

 一方、王氏は、厳しい対日姿勢で知られる。今月開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)の外相会議では、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出計画を巡り「汚染水」と表現して反対姿勢を強調していた。

 対中外交は王氏を通さないと話が進まないとも指摘される。日本政府は対話を重ね、緊密な意思疎通を図る必要がある。