あの高揚感が帰ってきた。地響きのようにうねるベースのリズムが体を震わす。空を切り裂くエレキギターの音色が脳を刺激する。そしてついにファンの大歓声がよみがえった。湯沢町の夏の恒例イベント「フジロックフェスティバル」が4年ぶりに通常開催された
▼世界を暗雲で覆い尽くした新型ウイルス禍は一時、あらゆる文化活動を停滞させた。観客が密集し、歓声を上げるライブは感染者集団が発生したこともあり、世間から冷たい視線を浴びた
▼フジロックも、2020年は初めて全日程が中止になった。21、22年は開催にこぎ着けたが規模が縮小されたり、マスク着用などの感染対策が義務付けられたりした。声出し自粛を求められたファンはただステージを見守るしかなかった
▼感染拡大当初の社会はライブどころか、離れた家族や友人に会うことすら断念せざるを得ないような空気に包まれた。不安が他者への信頼を揺るがし、当たり前に続いてきた日常が途切れた。普通に生きることが難しかった
▼21年のフジロックを思い出す。メインステージに立った人気バンドのボーカルが叫んだ。「生きていてくれてありがとう」。このバンドのライブでの決まり文句だが、感染禍の中ではさらに重く響いた
▼改めてこの3年余り、ウイルスが世界に強いた犠牲の大きさを思う。外出すらためらわれたあの頃、自由にライブを楽しめる日が戻るとは思えなかった人も多いだろう。だからこそ今「生きている」ことの大切さを感じたい。