全ての労働者に適用される賃金の最低額が、全国平均で初めて時給千円の大台を超える目安が示された。働く側にとっては物価高騰に苦しむ中で当然の引き上げだ。
一方、経営が厳しい中小企業には人件費アップが大きな負担になる。政府は、企業が安心して賃上げできるようしっかり目配りして対策を講じなくてはならない。
厚生労働省の中央最低賃金審議会は28日、2023年度の最低賃金(最賃)を全国平均で時給1002円とする目安額をまとめた。
現在の平均額961円から41円増額し4・3%の引き上げ率になる。現在の方式になった02年度以来、最大の増加幅になった。
春闘で相次いだ賃上げを反映させたとも言える。政府は、時給千円達成を目標に掲げていた。
しかし、千円台への引き上げでも、「現在の物価高騰では生活改善も実感できないのではないか」と指摘する識者もいる。
物価上昇は止まらず、6月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年同月より3・3%増えた。実質賃金は14カ月連続マイナスだ。
税負担も上がり、財務省によると22年度の国民負担率は47・5%に達した。さらに社会保障費などで負担率の上昇が見込まれる。
最賃は、中央審議会が示した目安額を基に、都道府県ごとの地方審議会が議論し、10月ごろから適用される。
課題だった大都市圏と地方の賃金の地域間格差は残されている。
今回初めて、経済情勢に応じて振り分ける都道府県別の区分を4から3に再編し、中間層を増やして格差是正を図った。
それでも各都道府県が目安額通りに改定した場合、最高は東京の1113円、最低は青森などの892円で、差は221円と22年度より2円広がる。
格差を放置すれば、本県を含め地方からの人材流出に歯止めをかけることはさらに困難になる。格差是正を進める必要がある。
懸念されるのは、原材料などの価格上昇のため経営が圧迫されている企業に、賃上げが追い打ちをかけることだ。審議会では経営者側が「中小企業が置かれている厳しい状況を踏まえるべきだ」と訴えていた。
岸田文雄首相は審議会の結果を受け、「(賃上げを)中小企業も行われるよう政府として一丸となって取り組み続ける」と話した。
企業が業績を安定させて原資を確保し、賃上げを持続させていかねばならない。
パート従業員を巡っては、年収が一定水準を超えると、社会保険料が発生したり、税の優遇が小さくなったりする「年収の壁」が大きな問題になっている。
賃上げしても働くほど手取り額が減る現在の仕組みには構造的な問題がある。賃上げとともに抜本的な制度改革が求められる。
