創業半世紀、新発田市の洋菓子店としては先駆けだった「フタバ」が先日、ひっそりと店をたたんだ。最盛期にはスーパーのテナントを含め9店舗を構え、市民に親しまれてきた

▼「商売が根っから好きだった」と話す社長の齋藤正さん(75)は、アイデアと行動力で社業を発展させた。売れ残ったケーキは翌日、女性社員が多い事業所を回り値引きして売り切った。新規参入した式菓子の営業では結婚式や葬式の司会を務め、シュークリームをその場で完成させる出張販売も展開した

▼新型ウイルス禍で葬儀やホテルでの需要が3分の1に減った上、病院内で営業したカフェは面会制限などで客が激減。原材料の価格高騰も加わって経営体力を奪われ、会社の破産申請に踏み切った

▼齋藤さんは「何十年になる常連さんもいて申し訳ない。さみしくて不本意だが、やれることはやってきた」と語る。同様の無念をかみしめた人がどれほどいることか。感染禍の関連倒産は全国で6千件を超える

▼その月別件数が増え続けている。猶予されていた融資の返済が重荷にもなっている。脱マスクが広がって訪日客も回復し、社会の雰囲気が変わりつつある中、深刻な実態があらわになってきている

▼歴史に幕を引いた老舗もあるだろう。借金をして念願の開業を果たしたばかりの人や新規事業に勝負をかけた人、ささやかな店を大切に守ってきた人…。倒産6千件超という数字の向こうに見える、幾多の経営者とその従業員の後ろ姿に思いを至らせる。

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