過度の円安が是正されて物価高が和らぐ可能性があるが、修正に伴う金利上昇には景気が減速する懸念もある。

 為替市場を含む金融市場の変動を抑え、賃金の上昇を伴う形で物価上昇率を2%に安定させ、好循環を達成できるかが試される。

 日銀が28日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の修正を決めた。長期金利の上限について「0・5%程度」をめどとし、市場の動向次第では1%までの上昇も容認するとした。

 修正は、2013年に「異次元緩和」を打ち出した黒田東彦前総裁が、昨年12月に長期金利の上限を0・25%程度から0・5%程度に引き上げて以来だ。植田和男総裁の就任後は初めてとなる。

 短期金利をマイナス0・1%とし、長期金利は0%程度に誘導する大枠は変えなかった。

 物価高が続き、金利の上昇圧力がさらに高まる事態に備えた措置だろう。上限を事実上、1%に拡大したとも解釈できる。

 週明け31日の国債市場は長期金利が上昇し、一時0・605%と約9年ぶりの高水準を付けた。当面0・6~0・7%程度で推移するとの見方がある。

 会合後の記者会見で、植田氏は「金利操作の運用を柔軟化し、金融緩和の持続性を高める」と強調した。「長期金利の形成をもう少し市場に委ねる」と説明した。

 日銀は長期金利の上昇を抑えるため、国債を大量に買う量的緩和策を推進してきた。低金利に景気を下支えする利点があるからだ。

 半面、日銀の国債保有比率は5割を超え、市場機能がゆがみ、財政規律が緩む副作用が生じた。

 放置すれば、景気を刺激する緩和効果を大きく損ねかねない。修正には国債購入が膨らまないようにする狙いがあるとみていい。

 識者は過度な円安を防ぐ意図も指摘する。インフレ抑止で欧米の中央銀行が利上げを進める中、日銀が緩和維持を決めるたびに円安基調となりやすかったからだ。

 日銀は為替に言及しないのが一般的だが、植田氏は今回の修正で「為替市場の変動も含めて考えた」と述べた。円安が家計を直撃して、日銀が目指す好循環を妨げていることがあるのだろう。

 修正にもかかわらず、31日の円相場は下落した。金融政策の正常化は当面先との見方も出て、ドル買い円売りが優勢となった。

 一方、修正を受けて長期金利が上がれば、住宅ローンや企業向け融資の金利上昇を招き、景気を冷やすリスクもある。

 31日には黒田氏が大規模緩和の導入を決めた当時の議事録が公開された。審議委員らが効果を疑問視していたことが分かった。

 異次元の緩和を脱却し、金融政策の枠組みを見直してもいいのではないか。通常の金融政策に戻ることも検討するべきだろう。