猛禽(もうきん)類のミサゴはさながら、すご腕の漁師のようだ。川や湖、海に急降下して魚を捕獲する。時には空中でホバリングして狙いを定める。獲物をぶら下げ、こちらの目の前を悠々と低空飛行する姿を見かけたことがある
▼この名ハンターになぞらえ、ミサゴの英語名を冠したのが米軍の輸送機「オスプレイ」だ。先日の日米合意で、本県を含む本土の山岳地帯で低空飛行の訓練が可能になった。航空法の最低安全高度である150メートルを大きく下回る約60メートルまで高度を下げることができる
▼懸念されるのは事故だ。高度約60メートルは山中に設置された送電鉄塔より低いこともある。日米は「送電線から十分距離を取る」などの安全対策について合意しているが、実戦を想定した厳しい訓練の中で事故が起きないという保証はない
▼日本のヘリコプターが飛行する妨げにならないかも心配だ。登山事故や災害に対応するため、ヘリが山岳地帯を飛行する機会は多い。ドクターヘリが飛ぶ可能性もある。軍用機のオスプレイは高速で飛行するため、一般のヘリが回避するのが難しいケースが起こり得る
▼低空飛行の訓練には自衛隊の「低高度訓練空域」が使用される可能性がある。昨年、米軍機使用のために調整された2カ所のうち、一つは本県や福島、群馬などにまたがる空域だ。一方、飛行の日時や経路は自治体などには明らかにされないという
▼遠くの山並みに、夏の雲がかかっていた。あの空を飛ぶのは鳥のミサゴの方がふさわしいと思うのだが。