熊本市の慈恵病院で10代の女性が、病院以外に身元を明かさず出産できる事実上の「内密出産制度」を使い、昨年12月に出産した。

 内密出産は匿名での出産を望む女性を支援するとともに、子どもが一定の年齢に達して希望すれば、自らの出自を知る権利を保障する制度だ。

 慈恵病院は医師らの介助を受けられない「孤立出産」が増えているとして、ドイツの制度を参考に、2019年12月に内密出産制度導入を公表した。

 女性は「ここで産めなかったら一人で産んで捨てていたかもしれない」と話していたという。病院の相談室長だけに身元を明かし、赤ちゃんは乳児院に預けられた。

 病院によると、女性が今後身元を打ち明ける可能性もあるというが、現時点で国内初の事例になるとみられる。

 母子のケアが最優先され、乳児が遺棄されることもなく、ともに命が守られたことは、内密出産制度が一定の役割を果たしたと評価できる。

 懸念されるのは、内密出産が法律に基づく制度となっていないことだ。身元を知りながら伏せて出生届を出すと、刑法の公正証書原本不実記載罪に問われる可能性がある。

 病院はこの点について、熊本地方法務局に見解を求めたが、捜査機関の個別判断になるとする従来の政府見解を示すにとどまった。

 一方、市は法令抵触の恐れを受け、病院に内密出産を控えるよう求めてきたが「母子の利益のため」に現実的な支援を検討する方針に改めた。

 慎重姿勢を崩さない国と病院、市の立場が相反する形だ。

 すべての子どもが望まれて生まれてくることが理想だ。しかし、現実には望まない妊娠、出産はある。しかも、そうした場合、母子に命の危険がある孤立出産が少なくない。

 慈恵病院は予期せぬ妊娠に関する24時間対応窓口を設け、全国から相談に応じるなど、一民間病院ながらこうした問題に率先して取り組んできた。

 07年には親が育てられない乳幼児を匿名でも受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置し、20年度まで159人を預かった。うち半数以上は孤立出産だった。

 孤立出産後に乳児が遺棄、殺害されるケースもある。

 母子の命を守ることを最優先に考えれば、国は積極的に議論をリードしていくべきではないか。戸籍登録や養育を巡る課題など論点も多い。

 こうした問題が病院や自治体任せとなっている現状には、強い違和感がある。

 内密出産は望まない出産などで匿名性が必要な人にとって最後の手段といえる。

 出産前の妊婦検診などを通じて病院と母親との信頼関係を築くことで、支援につなげることもでき、貧困問題の解決に資するとの指摘もある。

 国は内密出産について法制化の議論を深めてもらいたい。