日本周辺の国際情勢が一層厳しくなっていることを鮮明にした。対処するには抑止力を高める必要性があるとするが、過度な防衛力強化は周辺国との軍拡競争を招きかねない。政府は外交努力を重ね、緊張緩和へ導かねばならない。
2023年版防衛白書がまとまった。安全保障環境の深刻さを強調し、27年度までの5年間で総額約43兆円を充てる防衛費の妥当性を訴える内容だ。
昨年末の国家安全保障戦略など安保関連3文書策定後、初の白書で、3文書の内容を詳述した。
巻頭の特集では中国やロシア、北朝鮮の軍備増強を取り上げ「戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」と力説した。
中国については、軍事力を急速に強化しているとして国際秩序への「最大の戦略的な挑戦」と明記し、昨年の「強い懸念」から表現を強めた。
沖縄県・尖閣諸島周辺では、中国海警局の船が頻繁に航行している一方で、防衛省は南西諸島の防衛力強化を図っている。
偶発的衝突が懸念される。回避するには、5月に運用を始めた防衛当局幹部間を直結するホットライン(専用回線)を効果的に活用するなど、対話のルートを欠いてはならない。
北朝鮮については、弾道ミサイル発射を繰り返し、「一層重大かつ差し迫った脅威」とした。
ロシアのウクライナ侵攻は、ウクライナの抑止力不足が原因として、一方的な現状変更は困難と認識させる抑止力が必要とした。
そのため、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)を「わが国への侵攻を抑止する鍵」と記した。
白書が安保環境の悪化や巨額の費用を前面に掲げた背景には、国民の理解が広がっていない現状への焦りも透ける。
共同通信が春に行った世論調査では、約43兆円への増額を6割近くが「適切でない」とし、財源確保のための増税方針を「支持する」としたのはわずか19%だった。
政府は防衛分野の情報開示に消極的で、反撃能力の運用や手段となる長射程ミサイルの取得数などについて詳しい記載はない。発動のタイミングや日米の役割分担の明示もない。
国民の理解を得るには、より詳細に説明する姿勢が不可欠だ。
今回の白書で、元陸上自衛官の女性が在籍時の性被害を訴えたことを踏まえ、ハラスメント対策の項目を新設した。「隊員相互の信頼関係を失墜させ、組織の根幹を揺るがす」とし、ハラスメント根絶への決意を示した。
陸自では6月に訓練中の自衛官候補生が発砲し、自衛官2人が死亡した事件も発生した。
国防を担う隊員一人一人に指導や配慮が行き届く組織づくりにも力を入れねばならない。
