脱原発を後押ししようと、再生可能エネルギー由来を売りにした新電力と契約したとする。それなのに、既存の原発を再稼働させるために投じられた巨額の安全対策費を、電気料金を通じて負担させられたとしたら

▼耳を疑うような話だが、経済産業省はこうした仕組みの導入に向けた検討に入った。脱炭素に貢献する発電所の新設を支援する制度の対象に既存原発を加える。実現すれば、再生可能エネルギーを選択した消費者も原発再稼働の費用を負担することになる

▼支援制度は脱炭素化と電力安定供給の両立を目指し、来年1月に導入される。電力小売事業者から拠出金として集めたお金を発電事業者に分配し、一定期間の収入を保証することで投資を促す

▼対象は再生可能エネルギーや、二酸化炭素(CO2)の排出を新技術でゼロにする火力発電所のほか、原発の新設や建て替えなど。これらに既存の原発を加えようというのだ。現在の情勢では原発の新設や建て替えはなかなか見通せないが、既存原発も対象になれば、全ての電力消費者が原発を推進する費用を負担せざるを得なくなる

▼経産省の審議会では、さすがに一部委員が批判した。「原発を選択したのは(発電)事業者で、投資は事業者の責任でやるべきだ」といった声が上がり、消費者負担を問題視した。もっともな言い分だ

▼国はなりふり構わず原発を動かそうとする姿勢をあらわにしている。それにしても、ここまで「なんでもあり」だと不信は募る一方ではないか。

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