国民の不安を払拭するという目的を果たすには心もとない。示されたのは小手先の対策で、政府のちぐはぐな対応が気にかかる。

 岸田文雄首相が4日、健康保険証を廃止しマイナンバーカードに一本化するマイナ保険証の対処方針について記者会見で説明した。

 来年秋としている健康保険証の廃止時期については当面維持しつつ、見直すかどうかの判断は、マイナ問題の総点検と修正結果を踏まえるとして先送りした。

 マイナ保険証を巡っては、別人の医療情報がひも付けられて他人に見られたり、カード読み取り機の不具合などで「無保険扱い」となり、医療費10割を請求されたりする事例が多発している。

 政府は実施中の総点検について8日に中間報告を公表し、ひも付け方法に問題があれば修正して秋までに完了させる方針だ。

 国民の不安払拭を図れるかは、総点検の内容や修正の状況による。それを踏まえて廃止時期を判断するのは当然だ。

 首相は会見で、現行の保険証に代わる「資格確認書」を、マイナ保険証を持たない人全員に交付することも表明した。

 資格確認書は、現行の保険証を廃止しても保険診療に支障を来さないために創設する。

 これまで本人の申請に基づいて交付するとしていたが、マイナ保険証も確認書もない人が出る懸念から、本人の申請がなくても交付する方針に変更した。

 確認書の有効期限は「最長1年」から「最長5年」に延長した。

 現行の保険証が廃止されても、誰もが保険医療を受けられるようにするための対策だ。

 しかし実質的に現行の保険証を残すことと変わりはない。確認書の発行は保険者や自治体に新たな負担も生じさせ、ミスやトラブルを誘発する恐れもある。

 政府がマイナカードの普及を急いだのは、政権が掲げるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の柱となるからだ。

 首相自ら、デジタル技術を活用した地方活性化や行政改革を訴えており、政策の成否はカードの普及に左右される。

 ただ、資格確認書の取得方法や有効期限を見直したことで、マイナ保険証の取得ペースが低下する事態は避けられない。

 カード取得を「任意」としながら、保険証廃止とマイナ保険証への一本化を進めた政府の対応は「事実上の強制」と批判された。

 普及の進め方について、首相は会見で「瑕疵(かし)があったとは考えていない」と言い切った。国民の感覚とずれを感じる。

 首相は「国民に選ばれるマイナ保険証にすることに全力を尽くす」とも述べた。

 それにはミスの原因を徹底的に調べ、対策を練ることが大前提だと改めて肝に銘じてもらいたい。