核兵器廃絶への決意を改めて誓う日としたい。
広島と長崎に原爆が投下されてから78回目の夏となる。6日は広島で、9日は長崎でそれぞれ式典が営まれる。犠牲者を悼み、平和への決意を世界へ発信する日だ。
広島市では5月に、先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が開かれた。
米国と英国、フランスの核兵器保有国を含めた7カ国の指導者らが、史上初めてそろって原爆資料館を視察した。被爆者と面会し、原爆慰霊碑に献花した。
首脳訪問をきっかけに、原爆資料館では外国人観光客を中心に入館者が急増している。被爆地で開催された広島サミットの効果と言えるだろう。
世界の多くの人が、原爆による被害の実相を知って、惨禍を二度と繰り返さないという思いを持ってもらいたい。
米国のバイデン大統領は、原爆資料館の芳名帳に、世界から核兵器をなくせる日に向けて「信念を貫こう」とメッセージを残した。
核保有大国の指導者として、言葉通りに実行してほしい。
G7首脳らは、核軍縮に焦点を当てた初の独立文書「広島ビジョン」を発表し、首脳声明では「核なき世界」という究極の目標を掲げた。岸田文雄首相は「核軍縮の機運を高めることができた」と成果を誇った。
しかし、共同通信が全国の被爆者に実施したアンケートでは、広島ビジョンを「評価しない」が「どちらかといえば」を含め51・7%と過半数を占めた。理由は「核兵器禁止条約に言及しなかった」との回答が最も多かった。
広島ビジョンは、防衛目的のための核兵器による抑止を肯定しており、「G7各国の核抑止政策を肯定した」との答えが続いた。
米国の「核の傘」に頼り、核禁止条約に否定的な立場を貫く政府と被爆者らの溝は深いままだ。
7月には核禁止条約の諮問機関「科学諮問グループ」の専門家委員に推薦された長崎の被爆者が落選したことが分かった。
核禁止条約に否定的で加盟を見送っている日本政府の姿勢が影響したとされる。
条約の制定には、広島と長崎の被爆者らが大きな役割を果たしただけに、残念でならない。
懸念されるのは、核なき世界の理想とは裏腹に、核の脅威が高まっていることだ。
ロシアのプーチン大統領は、ウクライナに対し核による威嚇を繰り返し言及している。中国は核弾頭保有数の増強を検討している。ストックホルム国際平和研究所は核使用のリスクは冷戦後「最高」との警告を出した。
日本世論調査会が6~7月に行った調査では、10年以内に核兵器が戦争で使われる可能性が「ある」とした人は「大いに」と「ある程度」を合わせ64%で、昨年から5ポイント増えた。
核兵器がもたらす筆舌に尽くしがたい被害は、広島と長崎の惨状で明らかだ。唯一の戦争被爆国として政府は、核兵器のない世界の実現に向けた道筋を示し、動き出すべきだ。
