5月のG7広島サミットの際に原爆資料館を訪れた首脳らが記帳した芳名帳が、資料館に隣接する広島国際会議場に展示されている。惨禍の記憶に触れた首脳の胸に去来したものが垣間見える
▼核大国・米国のバイデン大統領は「世界から核兵器を最終的かつ永久になくせる日に向けて共に進もう」と記した。呼応するように岸田文雄首相は「議長として各国首脳と共に『核兵器のない世界』をめざすためにここに集う」と書き込んだ
▼核兵器廃絶に向けた思いの表れではあるのだろう。ただ、実現に向けた具体的な取り組みは一向に見えてこない。のみならず、米国に対抗する核大国のロシアはウクライナに侵攻した上、核兵器の使用をちらつかせ世界を威嚇する
▼ウクライナのゼレンスキー大統領は「現代の世界に核兵器による脅迫の居場所はない」と記した。かくあるべしだが、現実にはロシアも北朝鮮も核を背景にした恫喝(どうかつ)的な姿勢をあらわにしている。終末時計の針を進めるような現実に歯がみせずにはいられない
▼それでも…と自分に言い聞かせる。現実に流され、諦めてはなるまい。「失われた多くの命、被爆者の声にならない悲嘆(中略)にカナダは厳粛なる敬意を表する」と記帳したカナダのトルドー首相はサミット滞在中に資料館を再訪した
▼人類に初めて核兵器が使用された日から78年。この歳月の中で、今ほど核なき世界に向けた覚悟が問われている瞬間はないのではないか。何度でも言う。諦めるわけにはいかない。