政府が旗を振る政策がカネでゆがめられては、政治に対する国民の信頼を損なう。資金の趣旨など疑惑を徹底解明する必要がある。
東京地検特捜部は、脱原発を掲げて洋上風力発電を推進してきた秋本真利衆院議員が、洋上風力発電事業を手がける日本風力開発の塚脇正幸社長から数千万円の資金を受領したとされる事件で、関係先を贈収賄容疑で捜索した。
特捜部は、秋本氏が塚脇氏らと設立した競走馬の組合が実質的に秋本氏の管理下にあり、組合に対する塚脇氏の資金提供が秋本氏への賄賂に当たるとみている。
一方、塚脇氏の弁護士は、組合ができた2021年秋から23年6月までに、塚脇氏が総額3千万円余りを提供したが、組合員としての支払い義務を履行しただけだとして賄賂を否定している。
主張は特捜部の認識と真っ向から食い違う。組合の実態にメスを入れなくてはならない。
特捜部が注目するのは秋本氏の国会質問と資金の関係だ。
国は再エネ海域利用法に基づき、第1弾の大規模入札を3海域を対象に実施し、日本風力開発も参加したが、21年12月に公表された入札結果では、売電価格が安い三菱商事を中心とする企業連合が全てを落札した。
これに対して業界から反発の声が上がり、秋本氏は22年2月の衆院予算委員会分科会で、事業者公募の評価基準の見直しが必要だと訴えていた。
評価基準はその後、有識者会議の議論を経て見直され、国は22年10月27日に改定を決めた。
秋本氏は資金のうち1千万円を東京・永田町の議員会館事務所で受け取ったとみられ、関係者が現金を持参したのは評価基準の改定が決まった翌日だったという。
資金が国会質問への謝礼だったとしたら悪質だ。綿密に調べなくてはならない。
国会議員による国会での質問は、収賄罪の構成要件である「職務権限」の行使に当たる可能性がある。捜査は、国会質問と資金の趣旨を証拠を通じて結び付けられるかがポイントになるだろう。
疑惑を受けて秋本氏は外務政務官を辞任し、自民党を離党した。しかしそれで幕引きを図ることは許されない。秋本氏は疑惑について自ら明らかにするべきだ。
岸田文雄首相は「国民の疑念を招くような事態となり大変遺憾だ」と述べた。疑惑が事実なら、首相の任命責任が問われる。
政府は洋上風力発電を再生可能エネルギー普及の「切り札」とし、地方自治体と協力して候補地選定など取り組みを進めてきた。
第2弾の大規模入札は村上市・胎内市沖も含まれ、6月に公募の受け付けが締め切られた。
事業には地域経済の起爆剤としての期待もある。疑惑で再エネ普及が遅れる事態は避けたい。
