写真は一瞬を切り取って画像に閉じ込める。だから後になって眺めると歳月の流れを実感する。そんなことを考えたのは東京都内で開かれている横田めぐみさんの写真展を訪れたからだ
▼めぐみさんが新潟市で北朝鮮に拉致される以前の家族写真などが並ぶ。1972年に撮影された一枚には、5人家族全員が収まっている。父親の滋さんは当時40歳ぐらい。母親の早紀江さんは30代半ば。お二人とも髪は黒々として若々しい
▼滋さんは2020年に他界した。早紀江さんも近ごろは体調を崩すことがある。無理もない。この家族写真に収まってから半世紀以上の時間が過ぎている。撮影の5年後にめぐみさんは連れ去られた。以来、再会を果たせていない
▼1983年に本紙の取材を受ける滋さんと早紀江さんの写真もあった。娘の行方が分からなくなって6年。この頃になると、ともに表情に疲れがにじむ。拉致された可能性が明らかになった97年の写真では、すっかり白髪が目立つようになっていた
▼2002年に公開された、めぐみさんの20歳ごろとされる写真もある。あどけなかった少女から、大人の女性へと成長した姿が写し取られている。いまは58歳。その姿を想像することしかできないのが何とも歯がゆい
▼同様の写真展が本県で開かれた際も足を運んだが、その時からまた時間がたってしまった。時の流れの重さと残酷さを思う。めぐみさんと早紀江さんが、再び一枚の写真に収まる日が訪れることを願わずにはいられない。