医療は住民にとって欠かせないライフラインだ。病院が閉院しても患者やその家族らが安心できる医療態勢が求められる。県や関係機関には、そのための再編計画を示してもらいたい。
上越地域の中核病院の一角を担う上越市の新潟労災病院(199床)の閉院が決まった。具体的な閉院時期は示されていない。
閉院に伴い、新潟労災の機能は市内の県立中央、県厚生連上越総合、県立柿崎、市立上越地域医療センター、民間の知命堂の5病院に移管する。
秋までに県や地元自治体、医療関係者らでつくる上越地域医療構想調整会議で、具体的な再編案をまとめるという。
新潟労災は1958年に直江津地域に開院後、診療科を増やし総合病院に成長した。しかし、近年は診療科の縮小や病床削減、患者の減少が目立っていた。
背景にあるのは医師不足だ。2018年に18人いた常勤医は、22年には11人に減った。今年4月には内科の常勤医が不在になった。手術をする上で、常勤の内科医がいない影響は極めて大きい。
機能が大きく低下した新潟労災の閉院を、既定路線と受け止める医療関係者は多い。
とはいえ、今も整形外科と歯科口腔外科を中心に地域医療を担っている。機能の移管には、施設整備などの体制強化が欠かせない。
閉院が明らかになった時点で、118人の看護師を含む150人超の医療スタッフが働く。
上越医療圏は看護師ら人材不足の病院が大半を占める。閉院に伴う圏域外への人材流出も避けなければならない。
人口減も深刻だ。新潟労災で起きたような医師と医療スタッフの急激な減少が、地域の医療機関で相次ぐことも懸念される。
調整会議は新潟労災の閉院に伴う5病院への機能移管と並行して、上越医療圏の抜本的な医療再編も検討する。
医師不足で分娩(ぶんべん)を休止した糸魚川市の県厚生連糸魚川総合のほか、妙高市の県厚生連けいなん総合、県立妙高も含めて、圏域内の中期的課題にも取り組む構えだ。
急性期や高度医療を担う中核病院の機能を強化し、同時に回復期や慢性期など後方支援を担う周辺医療機関の機能を向上する。
県が7医療圏ごとに進める再編計画の一環で、中核病院と周辺医療機関の連携の深化を図る。
上越医療圏にない集中治療室(ICU)や、在宅医療の不足などについても課題となる。
圏域内からは「個々の病院の事情を優先するのではなく、医療圏を一体的に考えるべきだ」といった声が上がる。
他の圏域から距離がある上越圏域では、医療を地域内で完結させる必要もある。人口減が進む中で先を見据えた構想が欠かせない。
