この短い詩を書いた広島の女の子は当時、小学校3年生だったから、健在なら86歳か87歳だろうか。「げんしばくだんがおちると ひるがよるになって 人はおばけになる」
▼8月6日に広島、その3日後には長崎に。長崎への原爆投下から、きょうで78年になる。二つの爆弾によって、21万人以上が亡くなった
▼惨禍を繰り返さないために、原爆朗読劇「夏の雲は忘れない」を上演した俳優たちがいた。戦争を体験した女性18人でつくる「夏の会」だ。冒頭の詩を含め、被爆者の悲しみや嗚咽(おえつ)をつづった詩や手記を自分たちで集め、全国を巡って読み継いだ
▼その公演も2019年に終幕となり、朗読劇は同名で書籍化された。活動終了の理由は俳優の高齢化だった。メンバーの一人で長岡市出身の川口敦子さんは11歳の時、長岡空襲を目撃した。「無関心が一番怖い」。終演の年、川口さんは次世代にこう訴えた
▼広島の原爆資料館に今春登録された被爆体験証言者は33人に減った。原爆や空襲の語り部の減少が全国で加速している。時の移ろいは止めようがない。でも戦時下で空襲におびえ、窮乏生活に耐えた経験があるお年寄りは、私たちの周囲にもいるはずだ
▼兵役でなくても、勤労奉仕や空腹の切なさは忘れられまい。箸が立たない雑炊やすいとん、イモのツルを混ぜたカテ飯…。〈語り部の減りゆく中で卯(う)の花のかさましご飯を父は伝える〉杉田みゆき。お墓参りのお盆も近づく。祖父母たちの昔語りに耳を澄ませてみませんか。