学生の将来を考えて対処しようとしたという大学側の説明はふに落ちない。再び大学の組織統治が揺らぐ事態に陥っている。
日本大アメリカンフットボール部の寮で大麻と覚醒剤を所持したとして、寮に住む大学3年の部員の男が警視庁に逮捕された。
逮捕を受けて日大は記者会見を開いて経緯を説明し、林真理子理事長らが謝罪した。
日大によると、6月に警察から大麻使用に関する情報提供を受け、寮内を調べたところ、逮捕された部員の部屋で7月6日に大麻のような不審物が見つかった。
元検事の副学長は、大麻の可能性があると考えたものの、すぐに警察に届け出ず、関係者への聞き取りを続けた。
警視庁へ報告したのは不審物を見つけた12日後で、大麻疑惑を告発する匿名の手紙が林氏宛てに届いたことがきっかけだった。
報告遅れについて大学側は、自首させることが大学の責務と考えたとし、林氏も「隠蔽(いんぺい)とは一切思っていない」と強調した。
部員に反省を求め、大学自ら解決することが教育機関の務めと認識していたようだ。しかし違法薬物の所持は犯罪であり、捜査機関へ相談するのが当然の対応だ。
関係者への聞き取りを優先したという説明は不可解で、隠蔽を疑われても仕方がない。
林氏が報告を受けたのも、不審物発見の1週間後と遅かった。
日大には昨年秋、大麻に関する情報提供があり、11月下旬に部員の1人が「大麻のようなものを吸った」と申告していた。12月には警察からアメフト部で大麻使用の疑いがあると情報が寄せられ、薬物の講習会まで開いていた。
一連の経緯を踏まえれば、すぐに薬物情報を理事長の林氏と共有するのが危機管理の鉄則だろう。
日大は田中英寿元理事長が脱税事件で逮捕され、再生は昨年7月に外部から就任した林氏に託された。今回の事件は大学の体質改善が途上であることを印象付ける。
逮捕された部員は、大麻を購入した際に覚醒剤をもらったと説明している。入手経路を解明し、薬物汚染を断たねばならない。
先月から今月にかけて、東京農大ボクシング部員、岐阜県の朝日大ラグビー部員と、大学運動部の学生が立て続けに大麻取締法違反で逮捕されている。
大麻汚染は若者を中心に深刻な広がりを見せており、昨年大麻関連事件で摘発された約5300人のうち半数以上が20代で、20歳未満と合わせると7割を占める。
交流サイト(SNS)などで入手するケースが多く、危険性が軽視されているという。
しかし大麻は脳に影響し、幻覚や妄想の症状が出る恐れがある。他の薬物依存の入り口にもなる。
周囲から誘われても、断固として断る勇気を持たねばならない。
