近代美術館と万代島美術館という県内に二つある県立美術館が今夏、それぞれ開館30年と20年の節目を迎えた。
県財政悪化や人口減少、趣味の多様化など運営環境は変化しているが、文化拠点としての役割は大きい。県民に親しまれる施設であり続けてほしい。
近代美術館は1993年、新潟市の県民会館に併設されていた県美術博物館が独立して、長岡市に誕生した。万代島美術館はその10年後、新潟市中央区の朱鷺メッセ開業とともにオープンした。
両館は、全国有数の企業コレクションだった「大光コレクション」や県出身作家の作品などを軸に、国内外約6千点を所蔵する。
モネやロダン、岸田劉生(りゅうせい)、藤田嗣治(つぐはる)らの逸品もある。地方の公立美術館としては質、量ともに高いレベルと誇っていい。
新型コロナウイルス禍では、両館は休館や企画展の延期などを余儀なくされた。
文化芸術に接することで得られる感動や生活の潤いといったものの価値を、改めて実感した人もいたに違いない。
大型の企画展開催が難しく、美術館にとっては所蔵作品の価値に焦点を当てる契機にもなった。
近代美術館では2020年度以降、コレクション展の観覧者数が倍以上に伸びている。今も30周年を記念したコレクション展が開催中だ。今後も豊富な所蔵作品を新たな切り口で紹介してほしい。
近年はアニメや漫画など、従来の美術のカテゴリーを超えたサブカルチャー系の企画展も目立つ。
集客が見込めると同時に、「愛好者だけが行く場所」「難しい」といった美術館のイメージを変えることにつながっている。新たなファンの獲得に期待したい。
一方、予算が減少傾向にある中で、採算が取れない企画を実施しにくい状況となっている。美術館には優れた芸術作品を次世代に継承していく使命がある。集客という物差しだけでは測れない。
安定した運営環境をつくるには、寄付など新たな収入源の在り方も考える必要があるだろう。
幅広い年代が気軽に訪れるような場になることが鍵を握る。特に近代美術館は周辺に大学や音楽ホール、花々が咲く広場などが立地する。コンベンション施設内にある万代島美術館とともに恵まれた環境を生かしてほしい。
オランダの作家ディック・ブルーナの絵本には「まだ小さすぎるのでは」と心配する両親と美術館に出かけた主人公のうさこちゃんが「ああ、おもしろかった。びじゅつかんって たのしいところ」と振り返る場面がある。
子どもたちが豊かな物の見方や想像力を育む場となるよう、校外学習など教育現場との連携もさらに進めたい。夏休みに記憶に残る作品と出合う場になるといい。
