「善隣友好」をうたった条約の理想とほど遠い状況になっていることは残念でならない。安定した日中関係構築へ向け、両国は一層の外交努力を尽くしてほしい。

 日本と中国が平和友好条約を締結し今月で45年となった。しかし節目を祝うイベントは何もなく、冷え込んだ両国関係を象徴した。

 岸田文雄首相は自身の訪中と、習近平国家主席との会談に意欲を示しているものの、日中間には課題が山積している。

 喫緊では、東京電力福島第1原発の処理水を巡る問題がある。

 岸田首相が今月下旬から来月前半の間に開始を検討している処理水の海洋放出を、中国は国際会議などで「核汚染水」と公然と非難し続けている。

 中国は放出計画へ圧力を加える狙いで先月、日本からの輸入水産物に対する全面的な放射性物質検査を始めた。

 これにより、大量の鮮魚などが税関に滞留し、日本側業者に大きな被害が生じている。輸入の遅れはコメなどのほかの日本産食品にも広がっている。

 中国の過剰な反応に、日本政府は毅然と対応するべきだ。

 海洋放出すれば、中国はさらなる対抗措置を取る可能性が高い。

 国際原子力機関(IAEA)は放出計画を「国際的な安全基準に合致する」との包括報告書を公表した。これには輸入規制を撤廃した欧州連合(EU)などが理解を示している。

 日本は中国に科学的根拠に基づく対応を求めている。中国は政治的な思惑を抜きにして、冷静に日本と話し合ってもらいたい。

 安全保障面では、沖縄県・尖閣諸島や台湾を巡り、中国が力による現状変更を試みる動きを強化している。尖閣周辺では「第2海軍」と称される中国海警局の船が頻繁に領海侵入している。

 日本は台湾有事を想定して、南西諸島での防衛力強化を図っている。軍事的な緊張が高まることには懸念がある。

 一方、日本にとって中国は最大の貿易相手国で、経済面では切り離せない緊密な間柄だ。

 中国政府は10日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて停止していた日本への団体旅行を約3年半ぶりに解禁した。

 中国は景気回復の遅れが鮮明で、低迷する国内経済を活発化させる狙いだ。米中対立が激化し、経済的に結び付きが強い日本を引き寄せたい思いもあるのだろう。

 日本には訪日客増加による消費拡大が期待される。

 ただ中国人の旅行は団体から個人へと移行し、買い物より体験型に変化し始めている。日本の期待通りになるかは不透明だ。

 まずは民間交流を通じ相互理解を深めていくことが、両国の関係改善に欠かせない。交流を通し誤解や偏見を解消していきたい。