顧客軽視の業界体質が透ける。どんな調整があったのか、まずは全容の解明が急がれる。
損害保険各社がリスクを分散して引き受ける「共同保険」を巡り、公正取引委員会は、独禁法違反(不当な取引制限)に当たる可能性があるとして、大手損保4社への任意調査に着手した。
4社は東京海上日動火災保険と損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険だ。
不適切な価格の事前調整が行われたカルテルの疑いがある。違反行為が確認されれば、排除措置命令などの行政処分を検討する。
調査対象は、私鉄大手の東急グループ向けと、あいおいを除く3社が入札に参加した仙台空港の運営会社向けの保険契約だ。
東急での問題は昨年12月に発覚した。当初は4社とも3年契約で約30億円の保険料を示し、疑念を抱いた東急の担当者が指摘すると、談合行為を認めた。
再入札し、1年契約で5億~6億円で決着した。補償内容の見直しなどを踏まえても、当初の提示額から大幅に下がったことになり、不自然さが目立つ。
共同保険は損保1社では背負い切れないリスクを複数社で分担する仕組みだ。一般的にシェアが一番高い損保が幹事社となり業務を一手に引き受ける。大企業が安心して事業を営む上で備えになる。
だが入札を避けたい損保側の都合で保険料が高止まれば、競争原理が働かず、企業の負担は増す。
東急向けの疑いが明るみになった後も、京成電鉄やJR東日本、石油元売りや鉄鋼会社向けなどで疑わしい事例が続出している。公取委は今後、調査対象を広げる可能性がある。
金融庁は4社に対し保険業法に基づく報告徴求命令を出した。5~6月に続く追加の命令で、全ての企業向け保険を対象に価格調整がなかったか調べるよう命じた。
調査は異例の規模で、9月末までに全営業店の実態を報告するよう求めた。業界内でどこまで価格調整が横行していたのか、公取委と金融庁には、もたれ合いの構造にメスを入れてもらいたい。
損保業界を巡っては、保険代理店業も手がける中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正請求問題で、同社と損保大手の不適切な関係が判明した。
とりわけ損保ジャパンは最多の37人の社員を出向させ、契約者の事故車両の修理をあっせん、見返りに保険契約を獲得していた。なれ合い的な業界体質が保険金不正請求も助長した可能性がある。
保険金が過大に払われ、保険料算出など自動車保険制度の公平性が損なわれたとの指摘もある。
顧客を顧みない不誠実極まりない商行為について損保会社がどこまで認識、関与していたのかも明らかにする必要がある。
