「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産推薦を機に、日本と韓国の歴史認識を巡る対立が再燃している。懸念するのは両国の関係がさらに冷え込み、韓国側の反発が世界遺産登録への障害になることだ。
日本側は韓国と議論する意向を示している。「歴史戦」などという勇ましい言葉にとらわれず、冷静な対話で歩み寄りを図ってほしい。
林芳正外相が訪問先の米ハワイで、韓国の鄭義溶(チョンウィヨン)外相と会談した。両氏が対面で正式に会談したのは初めてだ。
「佐渡島の金山」推薦について鄭氏は「正しい歴史認識が未来志向の関係の根幹だ」などとして改めて抗議した。
林氏は韓国側の主張は受け入れられず遺憾だと表明し、議論は平行線に終わった。
韓国側は佐渡金山に関し、朝鮮半島出身者が強制労働させられた現場だとして、登録に反対している。
背景にあるのは、朝鮮半島出身者が働いていた長崎市の端島(はしま)(通称・軍艦島)などの「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録を巡る約束が「忠実に履行されていない」との不信の念だ。
2015年の産業革命遺産登録の際、韓国は一部施設での強制労働を理由に強硬に反対。日本側が「犠牲者を記憶にとどめるため適切な対応を取る」と表明した経緯がある。
しかし日本政府が遺産の全体像紹介のため20年に設置した施設の展示には朝鮮半島出身者への差別的対応はなかったとの証言内容が含まれ、「歴史の歪曲(わいきょく)」と韓国側は反発していた。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会は昨年7月、日本政府の説明は不十分とする決議を採択している。
鄭氏は今回の会談で「正しい歴史認識」を求めた。重ねて厳しい姿勢を示したといえる。
林氏は佐渡金山の遺産登録に向けて韓国とも誠実に議論すると伝え、ユネスコで文化遺産としての素晴らしい価値が評価されるよう冷静で丁寧な議論を進めると説明した。
林氏は韓国に対し、真摯(しんし)に向き合う姿勢を示したものと受け止めたい。問われるのは「誠実な議論」が日本の一方的な押し付けでなく、相手側にとっても受け入れ可能なものとなるかどうかだろう。
安倍晋三元首相をはじめ日本の政治家には「歴史戦」を殊更に強調し、ナショナリズムをあおるような動きも見られる。こうした態度は決して「誠実」とは言えまい。
世界遺産登録への動きが政治問題化することにより佐渡金山に無用なレッテルが貼られ、本来の文化的、歴史的価値が損なわれてしまう懸念もある。それは、本県にとって極めて残念なことだ。
日韓がまず互いの言い分にきちんと耳を傾け、協力して膠(こう)着(ちゃく)状況を解きほぐす。元徴用工や元慰安婦を巡る問題の解決策を探るためにも、そうした議論となるよう期待したい。













