搭乗機の墜落は、ロシアで武装反乱を起こしたことに対する「公開処刑」の結果なのか。

 欧米からは治安当局の関与を疑う声が上がる。政権に反旗を翻した者への襲撃に当局が関わったとしたら信じ難い。墜落原因はしっかりと究明されるべきだ。

 ロシア非常事態省は、小型ジェット機がモスクワ北西のトベリ州内で墜落、乗客乗員10人全員が死亡したとみられると発表した。

 航空当局は、6月に反乱を起こした民間軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏の名前が搭乗名簿にあると明らかにした。

 ワグネルに関係する通信アプリには、遺体が確認されたとの投稿があった。「ロシアの裏切り者による行為の犠牲になった」とし、情報機関の関与を示唆した。

 墜落について、連邦捜査委員会は安全規則違反の疑いで捜査していると発表した。ただ、当局が関与していたとすれば、どこまで真相に迫れるかは甚だ疑問だ。

 米紙は暗殺計画の結果との見方を報じた。米政府は機内に仕掛けられた爆発物が作動した可能性があるとみているという。

 ロシアのプーチン大統領は「家族に哀悼の意を表したい」と述べた。墜落を悲劇と捉えて政権側による粛正との見方を否定、幕引きを図る狙いがあるとみられる。

 だがウクライナのゼレンスキー大統領は「誰が関わっているのか、皆が分かっている」と述べ、プーチン氏が背後にいると主張した。

 バイデン米大統領も「ロシアでプーチン氏が背後にいないことはあまりない」と語った。

 これまでもプーチン氏の政敵への襲撃が相次いでいる。大半は未解決で真相は闇の中だが、明るみに出さねばならない。

 プリゴジン氏が死亡したとみられることで、多額の国家予算と正規軍並みの兵力を持つワグネルの弱体化が決定的となった。

 良好な関係だった航空宇宙軍総司令官も解任され、軍内部の「親ワグネル派」は一掃された。

 来年3月に大統領選を控えたプーチン氏にとっては、国内の波乱要因の一つを排除でき、結束が図られた形だといえる。

 ウクライナ侵攻でワグネルを派遣したプリゴジン氏は、対立した国防相と参謀総長の解任を要求して武装反乱を起こした。

 プーチン氏は「裏切り」と非難したが、収束後は大統領府で会談、「免罪」したとみられていた。

 侵攻での貢献を評価し、プリゴジン氏の愛国者としての側面を強調して、自らの基盤を固めたいしたたかさが透ける。

 懸念されるのはワグネルの動向だ。2万人の戦闘員が制御不能な状態で残されたとの見方がある。

 政情不安のアフリカ諸国でかつて民間人を無差別に殺害した疑いが持たれている。国際社会は監視しなければならない。