新型コロナウイルス禍で打撃を受けた上、物価高が拍車を掛けている。生活困窮者にきちんと支援が行き届くように、政府は対策に本腰を入れるべきだ。

 厚生労働省は、所得格差に関する2021年調査の結果を発表した。世帯ごとの格差を示すジニ係数は、前回17年調査からわずかに悪化し、過去最大だった14年調査とほぼ同水準となった。

 今回の調査は新型ウイルス禍で初の緊急事態宣言が出るなどした20年の所得が対象だ。税金の支払いや社会保障給付などを含まない「当初所得」の年間平均額は1・4%減の423万4千円だった。

 ジニ係数は0・5700で、前回より0・0106ポイント悪化した。

 所得や資産の均等の度合いを表す指標のジニ係数は、数値が1に近づくほど格差が大きい。

 前回調査は36年ぶりにわずかに改善したが、今回は悪化に転じた格好だ。非正規労働者らの雇用が打撃を受けたため、格差が広がったとみる向きは強い。

 厚労省の担当者は、今回の結果について「ほぼ横ばい」との見方を示すが、楽観はできない。

 大幅な悪化とならなかったのは、雇用調整助成金といった新型ウイルス対策で失業率が抑えられたことなどがあったとみられる。

 当初所得から税金や社会保険料を引き、公的年金などの社会保障給付を加味した「再分配後の所得」のジニ係数は、0・3813で、0・0092ポイント悪化した。

 当初所得のジニ係数と比較すると格差は33・1%改善したことになり、厚労省は「再分配機能に一定の効果があった」とする。

 しかし、年金など日本の所得再分配の仕組みは「現役世代から高齢者へ」の仕送り方式に重点が置かれているのが実情だ。

 経済的に困窮している人の所得底上げにつながる制度はどうあるべきか。政府は、実態を把握した上での検討が必要だろう。

 新型ウイルスの法的位置付けが変わったことで生活困窮者らを支える政府の支援は縮小した。

 特例貸付金は免除措置などはあるものの原則返済する必要があり、困窮者の重荷となっている。

 厚労省によると、今年5月の生活保護申請は2万2680件で、前年同月と比べ11・4%増えた。伸び率が2桁となるのは4カ月連続で、調査が現在の形式となった12年度以降で初めてだ。

 生活が立ち行かない世帯の急増ぶりが気にかかる。

 国立社会保障・人口問題研究所が公表した22年調査では、ひとり親世帯の20・8%が過去1年間に必要な食料を買えない経験をしていたことも明らかになった。

 年齢や家族構成などにかかわらず、本当に困っている人を手厚く支えていく姿勢が欠かせない。誰もが安心して暮らせる社会にするための仕組みづくりを急ぎたい。