対日世論が急速に硬化し、中国の邦人社会や日本国内への嫌がらせが広がっている。日本政府は毅然(きぜん)とした姿勢を示し、外交努力に全力を挙げねばならない。
東京電力福島第1原発の処理水放出後、中国の日本人学校に石や卵が投げつけられたほか、福島県などの飲食店やホテル、市役所に中国の発信とみられる迷惑電話が多数確認されている。
交流サイト(SNS)では、日本製品の不買運動を扇動するなど攻撃的な投稿が増え、反日感情が拡大している。
こうした状況に、岸田文雄首相は28日、「遺憾なことだと言わざるを得ない」と表明した。
政府は、在留邦人や日本の公館の安全確保に万全を期すよう外交ルートを通じて中国側に要求した。中国国民に冷静な行動を呼びかけることも求めた。中国は重く受け止めてもらいたい。
看過できないのは中国当局が反日的な動きを容認していることだ。SNSでは、中国指導部を批判する書き込みはすぐ削除されるが、日本への攻撃的な投稿は放置されている。
2012年には、日本政府の沖縄県・尖閣諸島国有化に抗議する反日デモが暴徒化した。反日感情がエスカレートして、同じ事態を招くことがあってはならない。
水産業界は深刻な打撃を受けることが危惧される。放出後に中国政府は水産物輸入を全面的に停止し、対象を本県を含む10都県から全国に拡大した。
政府は中国に撤廃を強く求め続けてほしい。新たな輸出先の確保や救済策もしっかりと講じなければならない。
日本への団体旅行が解禁されたばかりの観光も、放出後はキャンセルが続出している。26日に再開された新潟-上海便への影響が心配される。
公明党の山口那津男代表が28~30日に予定していた訪中も延期になった。中国側から「当面の日中関係の状況に鑑み、適切なタイミングではない」と伝えられた。
山口氏の訪中は、9月にインドネシアで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に合わせた岸田首相と中国の李強首相の会談実現への地ならしとも位置づけられていた。
関係悪化は避けられず、年内の岸田首相と習近平国家主席の会談実現も不透明になった。
日本政府が、中国政府の強硬姿勢を見誤って楽観視し、このような深刻な事態を招いたことへの批判は免れない。
処理水放出後、環境省や東電などが実施している海水の放射性物質トリチウム濃度の測定は検出限界値を下回っている。水産庁が採取した魚も不検出だった。
日本政府は根気強く中国政府に科学的根拠を説明し、対話を求めなくてはならない。
